しん

金の糸のしんのレビュー・感想・評価

金の糸(2019年製作の映画)
3.1
掲げた理想の気高さと、押し付けた現実の過酷さを同居させた国、ソビエト社会主義共和国連邦。二人のヒロインに焦点を当て、残骸となったソ連の記憶を現代の旧市街で考える物語です。

全体的にとても静かな作品ですが、そのなかに根元的な対立を孕んでいます。評議会で演説をするほどの高官にとって、ソ連が作り出したのは秩序であり、外(西側世界)に目を向ける必要がないほどの立派な社会でした。一方で名もなき作家にとっては、執筆という自らの天命すらも全うできず、肉親は過酷な現実(シベリア抑留)を押し付けられるという、筆舌に尽くしがたい社会でした。

そんな二人がしかし、全く異なる文脈で回想するのもソ連なのです。片方にとっては栄光の過去として、もう片方にとっては淡い青春の一時として。各人が持つノスタルジーを、本作は上手く表現していたと思います。

全体を通して、起伏点はほぼ一つに集約される物語ですので、眠くなる感じはします。でも心を少しだけ動かしてくれる、そんな作品です。岩波ホールという環境も相まって、心地よい映画体験ができました。
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