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めぐりあう時間たちのEyesworthのレビュー・感想・評価

めぐりあう時間たち(2002年製作の映画)
4.8
【時の交差点の前で】

『ものすごくうるさくてありえないほど近い』のスティーブン・ダルドリー監督×ニコール・キッドマン×ジュリアン・ムーア×メリル・ストリープの3人の名女優が織り成す異なる時代、異なる場所で生きた3人の女性の人生が共鳴する物語。

〈あらすじ〉
1923年、ロンドン郊外リッチモンド。作家ヴァージニア・ウルフ(ニコール・キッドマン)は病気療養のためこの地に移り住み、『ダロウェイ夫人』を執筆していた。午後には妹達とティー・パーティが控えている。1951年、ロサンゼルス。『ダロウェイ夫人』を愛読する妊娠中の主婦ローラ・ブラウン(ジュリアン・ムーア)は、夫の望む理想の妻を演じることに疲れながらも、夫の誕生パーティを開くため息子と共にケーキを作り始める。
2001年、ニューヨーク。『ダロウェイ夫人』と同じ名前の編集者クラリッサ・ヴォーンは、世話をしている友人のエイズ患者の作家リチャードが栄えある賞を受賞したことを祝うパーティの準備に取りかかっていた...。

〈所感〉
異なる時間軸を描く作品は多くあるが、この作品は「小説」という時渡り装置を媒介に、生きた時間も生きた場所も境遇も全く異なる3人の女性が実は密かに運命が絡み合っているという凝った脚本であり、終始退屈せずに見れた。ニコール・キッドマン演じたヴァージニア・ウルフは、英国のモダニズム文学を代表する女性作家だが、レズビアンの一面があった。文体は難解だが、時に茶目っ気ある文章で多くの読者を引き込んだ。そんな彼女をニコール・キッドマンは凛として強い女性の反面、寂しく不安定な彼女の素顔を巧く表現した。ある女性の一日を描いた『ダロウェイ夫人』を30年後に主婦のローラが愛読し、共感し、創作であるはずのダロウェイ夫人を真似て自殺しようとする所までいってしまう。普段は明るく振る舞っているが、本当は死の欲動に駆られ葛藤する女性を見事に演じた。そしてその50年後に編集者クラリッサはある出来事を通じてそのローラと出会う。女としてパートナーとして人間として揺れるクラリッサの感情の交差と爆発をメリル・ストリープが怪演した。この3人の女性がそれぞれ抱えるありふれた悩みのようで、深い谷に落ち込むような人生への深刻な不安が見ていて辛くなるが、美しい女性たちが問題を解決しようと戦う姿が我々の心を掴んで離さない。色々語ったが時代背景も含めて正直よく理解していない点が多い。けれど、これは何回も見るべき作品だというのはわかる。時間のオーバーラップが堪能出来るとても美しい映画だ。時の交差点の前で一度立ち止まって進むべきか留まるべきか考えている時、人間が人間であることを最も純粋に務めている瞬間である。
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