塩犬

ONE PIECE FILM REDの塩犬のレビュー・感想・評価

ONE PIECE FILM RED(2022年製作の映画)
4.0
歌姫、導くは新時代。

久しぶりに女キャラをキーキャラクターとして選んだ尾田先生。どんな子になるのか気になりつつも、ワンピース自体は随分前で記憶が止まっている状態の私(原作はウォーターセブンで記憶が途切れる)(不意にマリンフォードのネタバレを知り合いにされて全ての時が止まった)。
でも過去作のストロングワールドも良かったこともあり、見てみたい!しかもなんか歌が主軸になるらしい!シャンクスも出るぞ!てか娘…え!?娘なんかいた!?誰との子!?と期待値高めに映画館へ。

音楽を主軸にした作品として、満点を上げたい!オープニングの〝新時代〟で体が震えるような感動。映画館の音響設備がいかんなく発揮されているし、歌唱のAdoの歌声もテクニカルで唸る。
曲に関しては、各作詞作曲を担当した方が違うことからジャンルの若干のバラツキを感じるものの、逆に敢えてそうしたことでウタの音楽性の広さを表現出来ていたのがキャラ立ちさせる効果に繋がっていたと思う。また、歌詞の内容を深く読み進めていくと、曲調の割に不安感や必死さを感じるようなそんな言葉が多く綴られていて、ウタの精神状態や物語が進むにつれて蝕まれていく様が描かれていた。歌唱シーンが多く、物語の進行や広がらせ方に対して悪い影響があったという感想も聞いたが、これは音楽が主軸であって歌詞から読み取る部分も多く、特に今作の主軸であるウタの心の動きは歌詞から読み取っていくことが見ていく中ではポイントになったのではないかと思う。そういった意味では「裏を読んで見る」見方に慣れない観客は置いていかれている映画かもしれない。演出や脚本で一から十まで説明がある映画の方が昨今受けていることも考えるとそういった需要が増えているのも事実だろう。今作は「こうではないか?ああではないか?そう考えるとなるほど面白い」なんて考えを深めていく映画かもしれない。
今作では原作の主役陣が少し影が薄い印象もあるが、言葉数やシーンとして少なくても圧倒的にキャラ同士の関係性やキャラ立ちをさせることが出来るのは長年の声優陣あってこそ。原作やアニメを見直してからもう一度REDを見返すとよりキャラクター間の息遣いや間のとり方を活かしていくことでシーンが少なくてもそれぞれのキャラクターを魅力的に演出していることが分かった。
原作では最終章にすすんでいるこの頃ではあるが、まさしく、大どんでん返しを予感させる初出しの情報も多くあった。原作に対する注目も、考察班も捗る内容だったのではないだろうか。

原作での主役陣がもう少し目立ったことをしても良かったのかとも思うが、今作は謎多き男シャンクスとその娘が主軸のため、あまり主役陣が目立つとそれはそれで不都合を感じる。シャンクスの謎の解明は原作でして欲しいし、赤髪海賊団と麦わらの一味が直接的に相対するのは原作であって欲しい。そんな個人的なジレンマを解消してくれたのがウタの存在だった気がする。
ウタを主軸として描かれた今作は、「原作で見せたいけどその前にちょっとずつヒント出しちゃうよ!」みたいな思惑もあったのでは?敢えてウタを中心に描くことで決定的なところには触れず、赤髪海賊団と麦わらの一味が直接交わることもなかった(間接的なところはありましたけどね)。
魅力的なキャラクターを新たに生み出し、決定的な絡みを主役陣にはさせないことで今後の原作の楽しみも生まれたのはなかなか上手い作り方だったんじゃないかと思う。

また、シャンクスが出ることで新しい情報や新キャラクターの情報満載の作品になって困惑したファンも多かった様子。しかしながら、謎多き男シャンクスの話をするなら新しい内容が出てきてそこにフォーカスが当てられるのは当たり前のことだとも思ったり。
あまりにも新しい情報や設定が多く出過ぎており、長くシリーズを追ってきたファンには少し酷な演出ではあったのだろうが、あまりにも新しい情報やキャラクターに対する拒否感を感じさせる感想が多く、「新規ファンにはあたりの強そうな古参ファンが多い漫画なのかな?」なんて思ってしまった。映画としての不作と取るのは勿体ない判断かと。
もちろん、ワンピースファンとしては私も新参者なので、原作追っかけ勢から酷評をされることも多いことから原作も読み返してみた。原作をホールケーキアイランドまで追いかけて再びアマプラで鑑賞したが、よりいい作品として見れている。それは自分がよりワンピースという作品に触れることで各キャラクターの原作での関係性を理解し、それを踏まえてのいつもの関係性やギャップのある関係性に気づけたからだと思う。
原作を見てからでも楽しめると思えた作品のためこうも酷評されていることには残念さを感じつつ、観客動員数を見れば意見が別れることもままあることかと納得もしつつ。

…唯一、初鑑賞で気になったのは…シャンクスの首がめっちゃ太かったこと…。え?そこ?って思うかもしれないんですけど、私の思い出の中のシャンクスは風車村で止まってたんでもう…なにがあったのかと。作画、どうしたんだ?と。
なんだあれは、風車村の時のシャンクスは何だったんだ?もっと首のクビレ?細さ?首らしさ?あっただろ?熊ねじ切りそうな体格になってやがる…と本気で動揺しました。
原作でもちゃんと首太くなってたんでなんか逆に安心しました…そうか、これが普通なんやな、よかった。
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