somaddesign

メタモルフォーゼの縁側のsomaddesignのレビュー・感想・評価

メタモルフォーゼの縁側(2022年製作の映画)
5.0
夜な夜なこっそりBL漫画を楽しんでいる17歳の女子高生・うららと、夫に先立たれ孤独に暮らす75歳の老婦人・雪。ある日、うららがアルバイトする本屋に雪がやって来る。美しい表紙にひかれてBL漫画を手に取った雪は、初めてのぞく世界に驚きつつも、男の子たちが繰り広げる恋物語に魅了される。

:::::::::::

とても良かった。

原作ちょっとだけ読み済。(鑑賞後Kindleまとめ買い)

年齢差を超えたシスターフッド映画…かと思いきや、そういうことでもない。誰かを倒したり困難を克服することがない。ただ好きなものに向かって互いの背中を押し合う、年齢やジェネレーションギャップを超えた緩やかな連帯が尊い。縁側で日向ぼっこするような、心のどこかがポカポカと温まるような良さ。
誰もやっつけないシスターフッド映画として「ブックスマート」みたい。

うららと雪とコメダ先生…年齢に関係ない心細さや将来への漠然とした不安、努力するからこそぶつかる壁。三世代の女性をBLが繋げて、互いの背中を押したり支えたり。
「推し」のいる生活の豊かさ、「推し」を語り合える友人のありがたみを描く作品は数あれど、「推される側」まで描いて繋げてるのがほんとに尊い。


書道ギャグがいい転換点だし、全く関係ないトコから見てる人もいるし、応援されもするってことかしら。
期待と失望の繰り返しの人生の構図が劇中何度も出てきて、ワクワクの後にはたいていガッカリが待っている。思い通りにいかない、ままならないことばかりだけど、好きなモノがある・好きを共有できる友達がいる尊さにホッコリしちゃう。

大ベテラン宮本信子の素晴らしさは言わずもがな。原作の雪がもっとヨボヨボした人なのに対して、老齢でも元気いっぱい。興味のままにズンズン突き進むキャラクターに変わってて頼もしい。ウジウジしがちなうららの先に立って引っ張るわけじゃなくて、横並びに歩みを促す関係性も良かった。あくまで関係性は対等な二人で、雪が大人ぶったり、うららを子供扱いしないのが素敵だった。

芦田プロとも称される天才・芦田愛菜の10代後半の記録としても貴重。その才能を余すところなく発揮してるし、もしかしたら彼女自身が直面してるかもしれない鬱屈さや窮屈さを演技に乗せてみえて、うららが解放される瞬間には芦田プロ自身も解き放たれるよう。産みの苦しみを創作の楽しみに転化できちゃう無我夢中っぷりも微笑ましいし、初期衝動cちゅーか初心を思い出す。(うららが出来上がった本誌をまじまじと眺めるシーン。出来はさておき達成感に心が満ちる姿は自分自身を見てるようだった)

フード描写も良くて、うららが雪に食事や甘い物を誘われるのを絶対遠慮しない。対等な関係だから遠慮も無用。仲良く食卓を囲む二人が尊い。「はい!いただきます!」ってカレーに始まり、コメダのシロノワール(?)、プリンアラモード、ノルウェー土産のお菓子etc…楽しみにしてたサンドイッチがあんなことになってもしっかり食べてる。一つ一つを経験として噛み締めて彼女の糧としていくようだし、うららが雪の思いやりをしっかり受け止めるコなのも分かるし、遠慮せず距離を置かずに接しあう二人の距離感がいい。

余談)
うららのお母さん美香を演じてたのは伊東妙子。T字路sのメンバーで、今作の主題歌「これさえあれば」は元々T字路sの楽曲。エンドロールで流れるうららと雪のカバーverもとてもエモい。誰が歌ってもT字路sの曲はT字路sの曲ってすぐわかるのすごいし、後で調べるまで伊東さんが出演してることに全然気づけてなかった自分の目の節穴っぷりにも驚いた。(主題歌をあの二人が歌うことは撮影後に決まったようで、二人とも作品の〆となる要素だけに大変なプレッシャーを感じたそう)調べたら随分前の曲なのね。今作のための書き下ろしかと思うほどピッタシだったわよ。

47本目
somaddesign

somaddesign