きゅうげん

エルム街の悪夢のきゅうげんのレビュー・感想・評価

エルム街の悪夢(1984年製作の映画)
3.8
ゆめうつつを股にかける殺人鬼という意外な角度からのアプローチで、手垢のついたスラッシャー・ホラーに最後の輝きをもたらした佳作です。

'70年代以来の玉石混淆な凡百の同ジャンル内でも本作が生き残ったのは、エイティーズらしい数々の要素でしょう。
『ハロウィン』ほどクールじゃないし『13日の金曜日』ほどラフじゃないけど、楽天的な空気感に包まれた舞台や人物、ゴア描写・特殊メイクの機械化、セットや撮影の色調にいたるまで時代感が担保してくれている魅力があります。
フレディがおおよその殺人鬼と異なり饒舌なのも、ポップアイコンとしての定型化に拍車をかけた要因のひとつでしょう。

驚くべきは恐怖表現とその演出・撮影。
血まみれのティナが壁や天井を這いまわるシーンや、グレンがベッドへ呑まれ血しぶきが吹きあがるシーンなど、ギョッとさせるものがあります。撮影所に回転する部屋のセットを組みカメラマンを固定、四人がかりでグルグル回したとか。
よく見るとロッドの首から頭へ血がのぼっているのが分かります。
フレディの腕がのびたり壁からせり出て来たり、直接的な殺傷にはむすびつかないながらも恐怖を煽る映像表現はまさしく「悪夢」です。
ウェス・クレイヴン監督は「悪夢は精神が作り出したホラー映画だ。逆にホラー映画は文化が生んだ悪夢だ。我々が目を背けるような事柄にあえて目を向けているんだ。」と述べています。

それにしても、'80年代の映画はアクションにしてもホラーにしてもどうして工業地帯っぽいロケーションばかりなんでしょうか。
必ずどこかでボイラーが熱せられてたり、発電機が火花を散らしていたりする金網の通路で鬼ごっこしますよね。
(監督によれば、フレッド・クルーガーという名前は幼い頃のいじめっ子からインスパイアされたもので、ドイツ系の名前からナチスの軍事工場を連想、「近代的で清潔な場所では捕らわれている感じがしない」から工場的な舞台にした、と理由を残してます。……が上記のような同時代性も拭えません)