きゅうげん

ズートピアのきゅうげんのレビュー・感想・評価

ズートピア(2016年製作の映画)
4.8
フィルム・ノワールもバディ・ムービーもディズニーアニメ史上初の試みでありながら、2010年代の新黄金期を代表する新古典に。
往年の犯罪映画をリスペクトしたストーリーライン・当意即妙な会話劇や秀逸な伏線回収・『蒸気船ウィリー』『ゴッドファーザー』などの名作オマージュなどなどがてんこ盛りの楽しい世界観へ、繊細な人種差別問題を落とし込んだ作劇は出色の出来栄え。


“賢いウサギ”というモチーフは世界中ありますが、なかでも本作のものはアフリカ各地の民話へ遡るらしいです。
合衆国へ奴隷として連れてこられた人々の口承文芸をまとめたのが、ジョエル・チャンドラー・ハリス。奴隷を使役する綿花農園経営者が発行人を務めていた新聞社で印刷工見習いをしており、多くの黒人奴隷と共同生活を送っていたんだとか。
新聞記者へ出世した彼が編んだ『リーマスおじさんの唄と言葉 南部農園のフォークロア』は、俊敏さと聡明さで周囲を出し抜くウサギ表象をアメリカで一般化させ(たとえばバックス・バニーもその影響を受けた一匹)、後年には映画化もされました。
それが『南部の唄』です。
公開当時から人種差別な表現や南部社会の美化などは批判され、現代にいたってもスプラッシュマウンテン改築に関わる論争はじめ、ディズニーアニメ史上最も禍根を残した作品と言えましょう。

典型的なまでに古き良き王道大作ハリウッド映画風味で仕立て上げた、本作の“あえて”の姿勢は、作品を超えアイコン化されてしまった“うさぎどん”(ブレア・ラビット)と“きつねどん”(ブレア・フォックス)を、反転的な脱構築で救いあげる挑戦だったのだと解せます。
(※ちなみに「ブレア」は「ブラザー」(=黒人の同胞同士を指す意味)の南部訛り)
無意識的なロマンティサイズの権化である『南部の唄』をひっくり返し、「一人ひとりの努力の先に真のユートピアがある」と観た人すべてを鼓舞する決着には本当に胸を打たれました。
ジュディとニックの前途に幸あれ!