Jun潤

ハケンアニメ!のJun潤のレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.3
2022.05.25

2022年レビュー100本目!🎉🎉

原作既読。
辻村深月先生の著作ということで、魅力的なキャラクターがイキイキと動いている様子が文章からも伝わってきました。
それが今回実際のアニメーションと合わせて、好きなキャストさんばかりで映像化となれば期待値はモリモリです。

「サウンドバック」(通称:サバク)は大卒で元県庁勤務の新人女性監督・斎藤瞳が売上至上主義の敏腕プロデューサー・行城理と共に作るロボットアニメ。
「運命戦線 リデルライト」(通称:リデル)はかつて「光のヨスガ」で名声を手にした天才監督・王子千晴と、王子に振り回されるプロデューサー・有科香屋子がタッグを組んだ魔法少女アニメ。
土曜夕方5時枠でブッキングした2作は、1クールで一番人気の作品が得られる“覇権”を獲るため、自らの魂も肉体も睡眠時間も賭けて、それぞれのアニメに命を吹き込む。

くぅ〜↑↑邦画の勢いが止まらねぇ!!
2022年を代表する傑作邦画がまた一つ。

予告編はコメディ調でしたが、中身はアニメ制作のリアルな現場を描くお仕事群像劇。
登場人物たち全員にアニメや仕事に賭ける強い想いがあり、熱量をもって世の中にアニメを届けようとする心滾る人間ドラマ。
お仕事ものには不可欠な情熱が周囲に伝播する様子も、監督やプロデューサーの強い想いに感化されて動き出す人たちや、間接的にでも作品に関わる人たちの描写でもって如実に表現されていました。

原作を読んだのもだいぶ前だったので、うろ覚えだった結末にも純粋に衝撃が走りました。
結局記憶違いでしたし映画オリジナルの結末となっていたわけですが…。
キャスト情報解禁の時点で登場人物の相関にも変更があるのかと思いましたが、そこは原作通りで一安心。

アニメを扱う作品というのと、個人的にアニメファンであることと合わせて、鬼滅エヴァハルヒラピュタの台詞や描写の引用を違和感なく挿入して作品の完成度を底上げ。
細かいところだとあのはなのじんたんTシャツもありましたかね?
小道具にも凝っていたので、もしかしたら何回も観るほど新しい発見がありそうですね。
劇中アニメへの気合の入り具合に加え、声優陣も本職の方々を揃えるという本気っぷり。
作中で重要な役回りの群野葵役の高野麻里佳も本職は声優というのだから恐ろしい。

傑作邦画に尾野真知子あり。
その安心感もさることながら、吉岡里帆の安定感が青天井。
『ホリック ×××HOLiC』で魅せた性的で魅惑するような演技とは正反対に、今作で演じたのは飾りっ気なく泥臭さしかない、アニメに情熱を捧げる新人監督の姿。
中村倫也が演じた驚異的なまでに作品の完成度を追究する王子監督と相まって、思わず手に汗握ってしまうほどの演技力が溢れていました。
あとエクレアに齧り付いたり誰もいないところでぴょんぴょん飛び跳ねたりしちゃう柄本佑かわいい。
小野花梨もかわいいなぁ。

今作で制作陣が、そして辻村深月先生が描いていたものはアニメやアニメ制作の現場に留まらず、人生を変えてくれたモノ、情熱を捧げているモノ、他人に夢や希望を与えようとする熱意、誰かに繋がる仕事の情熱でした。
アニメ好きの人にとっては、影響を与えてくれたアニメに想いを馳せられます。
今観ている映画の制作に携わった人たちの情熱や、観た人が夢見ている仕事、今している仕事の先に、顔も名前も知らない人に届くモノがあるという、見失いがちだけど大切な想いを伝えてくれました。

視聴率やSNSの反響などをアニメーションで表現する手法に、みんなでスマホを囲んだりテレビの前で固まったり、サブスクで追っかけ視聴したりしてアニメを見るなんていう、アニメが大衆化したからこそ違和感のない場面に仕上がる、昨今のアニメ事情とマッチした演出も光っていました。
土曜夕方5時にアニメ放送枠があったりスマホでリアルタイム視聴ができたりなんていうのは、少々近未来感がありましたね。

今作で言うところの“覇権”とは何を指すのか。
アニメ以外の映画ドラマ漫画の、“名作”と“傑作”の違いにも通じるところがあります。
より多くの人が知っていて数字を稼いだ作品は“有名”だから“名作”。
より深く心に突き刺さるほど優れた作品は、広く知られていなくても“傑作”。
“有名”だから“覇権”、“優れている”から“覇権”。
解釈は人それぞれですが、どの作品にも作る人たち、関わる人たちの情熱が込められているから、人の心に届いた作品はそれだけで“覇権”です。
Jun潤

Jun潤