Jun潤

からかい上手の高木さんのJun潤のレビュー・感想・評価

からかい上手の高木さん(2024年製作の映画)
3.9
2024.06.04

今泉力哉監督作品。
原作も昨年ついに完結、テレビアニメも2022年公開の劇場版で完結しており、今回の実写ドラマ&映画でメディアミックス展開もコンプリートですね、さすがのコンテンツ力です。
ドラマ版の方は録画を一気に視聴しようとしたものの、録りきれておらず一話と最終話、間をちょこちょこ見れたという感じ。
しかし少し見ただけでも原作の雰囲気を再現しており、高木さん役の月島瑠衣がちゃんとおでこを出しているだけでなく、『怪物』で圧巻の演技を観せてくれた黒川くんの西片らしい演技で見応え抜群でした。
それそのはず、今泉監督といえばクセのあるキャラクターを魅力的に描いてくれますが、純粋な感情を持つキャラクターを描かせても十分に手腕を発揮してくれるお方。
高木さんが転校して島を去ってから10年後を描くという、キャスティングありきの実写化にも思えますが、ちゃんと監督のクリエイティビティが乗っかってそうで安心して観れます。
日常の積み重ねから晴れて結ばれた原作、最後を意識した日常の延長線上で家族になったアニメときて、初恋に対して素直になりきれていなかった2人の再会から再び始まる物語を思わせるような今回の実写化。
これまでとはまた違った西片と高木さんのやりとりを描いてくれるんだろうと期待して今回鑑賞です。

高木さんが転校して10年、西片は母校で教師として働いていた。
ある日、西片は新しく学校に来る教育実習生の担当を任されるが、なんとその実習生は高木さんのことだった。
突然の再会に戸惑いつつ、再び始まる高木さんからからかわれる日々に喜びが漏れ出る。
中学時代から付き合っていた中井くんと真野ちゃんの結婚式、西片と高木さんが受け持っているクラスにいる大関と町田の関係性から、西片と高木さんの初恋が再び動き出すー。

うーん、まず気になったところから言っていくと、高木さんのからかい成分が全体的に足りていなかった印象が強めです。
というのもそもそも原作は単行本にして20巻分、テレビアニメも3クール分と、西片と高木さんの“むずキュン”なやり取りが十分に描かれた上で、原作最終回や劇場版の結末に繋がっていくという流れでした。
しかしテレビドラマの方は30分枠な上に話数も少なく、三分の一くらいを高木さんの転校話に持っていかれていた印象。
原作の最大の魅力である高木さんが西片をからかう様子が不足していた上での今作の上映という前提条件があり、さらに今作の中にもからかっている描写が足りていなかったので、コンテンツの魅力を最大限に活かせていたのか微妙なところ。
アニメ映画のスコアから減らした要因としてはこんなところでしょうか。

上述の部分が鑑賞中ずっと気になったので今作は如何なものかと思いっていましたが、なんといっても終盤の、高木さんの隣に西片がいて、西片の隣に高木さんがいるワンカットをだいぶ尺を取って長回ししていた場面に今作の魅力と今泉監督の手腕がピッカピカに光っていましたね。

中井くんは真野ちゃんに対し、特別な想いをきちんと伝えるため披露宴にてプロポーズを仕切り直す。
町田くんは告白のことをした方もされた方も傷付く暴力だと思っている。
高木さんは町田くんだけに、「好きよりも好き」という「からかうこと」だと教える。
これらの場面があって初めて、高木さんも西片も、10年という空白があってもなおお互いの関係性を維持できたんだという裏付けになっていたと思います。
10年もあったんだから西片も高木さんも付き合った経験あるでしょとか、人を好きになることが分からないなんて西片はクィアなのかいらなんてツッコミは野暮なもんですよ。

昔自分たちがやっていたような駄菓子屋で寄り道している担当クラスの男女が、高木さんたちがしなかったようなところまで関係が進んでいる様子を、高木さんと西片が並んで遠くから見守っている場面などは今泉監督節がキラッキラに光っていましたね。
しかしそれすらも軽く超えていたのは、上述の終盤にある長回しシーンでしょうか。
これまでの今泉監督作品群で描かれてきた、好きという気持ち、付き合うという関係性、これからもずっと一緒にいるということ、そこからさらに進んだ結婚の話。
それら全てを、西片と高木さんが台詞と表情で丁寧に丁寧に語っていき、観ているこちら側が口に出したくなるほどのムズムズを溜めに溜めた上で、西片なりの、高木さんなりの言葉と表現で一つに結んでいく様のなんとまぁ心地よいことか。
このためだけに今作を観にきたと言っても過言ではないほどの、『高木さん』コンテンツ、そして今泉監督の集大成のような場面でした。

演技については、中学生時代の西片を演じた黒川くんがハマりすぎていただけに、ふみふみに対して期待や不安も高まっていましたが、それらを軽く払拭してくるほどのハマりっぷりでした。
中学生の男女というと、女子の方がちょっと大人びていて、男子は年相応に子どもなので、原作やアニメ、ドラマの方で2人の関係性に違和感を抱えることもありませんでした。
しかし年を重ねれば2人ともだいたいちゃんとした大人。
なんだけどやっぱり西片は高木さんを前にすると中学生みたいな反応になってしまう、そんな理想の“大人になった西片像”をふみふみが演じきっていましたね。
高木さん役の永野芽郁はというと、個人的には何かが足りなかったというか、大人っぽすぎたというか、上述の通り西片をからかう場面が不足していたので、ハマっていたかどうかについてもなんとも言えませんね。

原作でもアニメでも描かれなかった西片から高木さんへのプロポーズに加え、やはりこちらにも出てきてくれた2人の娘・ちーの存在と、原作ファンに対するサービスもモリモリでたまらなかったですねぇ。
Jun潤

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