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VORTEX ヴォルテックスのsonozyのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
5.0
ギャスパー・ノエ監督作。
パリのアパートに長年暮らす老夫婦が、花に囲まれた小さなベランダでワインを楽しむ幸せそうなシーンから、フランソワーズ・アルディ『Mon Amie la Rose(バラのほほえみ)』のMusic Videoというオープニング。

一転、一つのベッドに並んで寝る二人の間に線が引かれ、ここから先は二分割画面でそれぞれを捉えながら進行します。

引退した映画評論家で映画と夢についての本を執筆中の夫役は『サスペリア』等ホラーの巨匠ダリオ・アルジェント、認知症が進行し近所の徘徊や室内での行動が危うい元医師だった妻役はフランソワーズ・ルブラン。

トイレまで積まれた本や雑誌、長年住んでいる事が明らかな雑然としたアパートの中を中心に、夫婦それぞれの行動を捉え続ける二分割画面が非常に効果的。

たまに訪れるのは、二人の息子ステファン(アレックス・ルッツ)と、やんちゃな孫のキキ君。

認知症が進行する妻を抱え、自身は心臓に疾患を抱えながらも、特にケアスタッフも頼まず、二人だけの生活に固執する夫。(妻のケアも不十分で、むしろ咎めたりしているのだが・・)

息子ステファンは妻が精神的に病んでいるようで、男手一人で息子キキを育てているが、どうやらヤバい仕事をしている様子。両親を心配し、ケアスタッフを頼む事や施設への入所を勧めているが父は人生の全てが詰まった家を離れることはあり得ないと拒否する。

タイトル『Vortex (渦/渦巻き)』を感じさせるシーンは・・
・夫の書きかけの原稿をトイレに流してしまう妻。
・乱雑に置かれた複数の薬の錠剤をコップの中で潰し液体で混ぜる妻
・テレビに映っているタルコフスキーの『惑星ソラリス』の海(赤く着色)。
・天地が反転していくラストシーン。

死が近い老年期の二人の日常を捉えた二分割画面の視聴体験と渦巻きというタイトル。
これまでのハイテンション/過激な作風とは一転、静かに心動かされる作品です。
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