れーちゃん

VORTEX ヴォルテックスのれーちゃんのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.5
先行上映会で鑑賞。
心臓病を抱える夫とアルツハイマーを患う妻の物語。
「心臓より先に脳が壊れていく人たちへ」というメッセージと共に、この老夫婦が死に向かっていく日々が映し出される。

二画面同時進行で撮影が進むスタイルは同監督作品「ルクスエテルナ」でもそうだった。

従来の映画は、一つのフレーム内で表現し、画面の外の世界は映らないセオリーだ。
しかし、この二画面技法により「フレーム内の外の世界」を表現することができる。フレームという概念を壊すことで、より多くの映像を同時に映し出せるのだ。
また、二画面どちらも交互に観ることで観客の没入度もより一層高まるのも◎

そして、映像の世界は広げたものの、描いているのはこの狭い家庭内のことであるというのも面白い。笑

片方の画面で手を伸ばすと隣の画面でその手先が映ったり、時には人が画面を通してスイッチしたり、全く別の場所にいる人の様子を映し出したり。

これまでのギャスパー作品とは思えないほどシリアスなストーリー展開ではあるが、やはりギャスパーらしいと思える作品。

監督インタビューの際に、出演者の人々にはセリフを与えておらず、シーンの説明と役柄だけ伝え、あとは全部アドリブだと言っていた。

アドリブでこの映画が成り立つのは監督、出演者の皆さん、技術スタッフの腕前の凄さだと実感。

コロナ禍初期の2021年1月に脚本を描き、制作を開始し、2021年の6月にはカンヌ国際映画祭で上映したとのこと。
そんな短期間で作り上げた作品とは思えないクオリティ。

この作品に関わる全ての人々に賞賛を贈りたい。ギャスパー・ノエにしか作れないと思える素晴らしさだった。
れーちゃん

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