somaddesign

映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
今年も劇場版クレしんは最高だった

:::::::::::

しんのすけが生まれた日から5年後のある日、野原家に医師とちよめと名乗る女性が訪れる。産院での取り違えが原因で、それぞれの子供が入れ違っているという。自分がしんのすけの本当の親だと主張するちよめ、二人の本当の子供だという珍蔵を前に、ひろしとみさえは困惑してしまう。ひとまず彼女達を泊めることにしたが、その夜、謎の忍者軍団が野原家を襲い、ちよめとしんのすけが連れ去られてしまう。

:::::::::::

毎年の楽しみ「劇場版クレヨンしんちゃん」
30作目記念とあって、大人泣かせ系でも純こども向けでもない。原点回帰した全方位悪ふざけに振り切ってて楽しかった。

監督は3年ぶり何度目かの橋本昌和監督。脚本は「引っ越し物語サボテン大襲撃」「爆盛!カンフーボーイズ」「新婚旅行ハリケーン」「花の天かす学園」と何度も熱い傑作を残してるうえのきみこ。特に橋本監督とは5回目のコンビとあって、ストーリーに遊びが多いのに無駄がない。もはや劇場版クレしん界で盤石のコンビ。地球の存亡がかかってる点では過去イチスケールのデカい話のはずなのに、しんちゃんがずっとふざけてるせいで「地球危うし!」感がなくて面白かった٩( ᐛ )و

古今東西の名作映画オマージュで組み上がってて、映画の入り口は新生児の取り違えを題材に「そして父になる」。だけど今更野原一家じゃない訳ないのと、ひろし&みさえが血より濃い繋がりを信じてる感が泣けた。迷いなくしんのすけを助けに行く野原一家が相変わらずカッコいい。

他にも細かい映画小ネタもいっぱい。
長老の屋敷のデザインや逃走シーンは「千と千尋」
「今使わずにいつ使うのだ」は「ナウシカ」のあれ(捨て台詞のように乗り物に乗って去ってく様まで完コピ)
巨大傀儡の操縦風景は「パシフィック・リム」のそれ。
「影の軍団」や「忍者武芸帖」といった古き良き忍者映画のオマージュも入ってるぽいけど、詳しくないので元ネタ分からず。他にもいっぱいありそうだけど、一見しただけだと見つけ切れなかった(。-∀-)
掛け軸の文字が家によって「色即是空」と「一石二鳥」ってじんわり対比になってて、各々が大事にしてるものが透けて見えて、クライマックスへの補助線になってた。

ちよめの設定を生かしたアクションだったり、土下座医者の秘密とか、いちいちセリフで解説しなくても、設定をすんなり読み取らせる語り口がすげえ。ていうかちゃんとキャラクターそれぞれの個性を、ちゃんと生かしてくストーリーがまー素晴らしい。
次々と起こる超展開にちゃんと辻褄を合わせにいく丁寧さ。それでいて小難しいこと抜きに、子供でもちゃんと楽しめる作りとクオリティを成立させちゃってるのが本当にすごい。

忍者の里の風子に代表されるように、どんなに優秀でも性別を理由に幼くして出世を諦めなければいけなかったり、容姿にしか価値基準を置かれない性差別の残酷さにも踏み込んでるのもすげえ。理不尽なルールに縛られる窮屈さだったり、無自覚に差別を内面化してしまう怖さ。
珍蔵にしても生まれてこの方、5歳にして人生の全てを勝手に決められて.勝手にガッカリされてるわけで、真面目な少年であるが故に自縄自縛になって、自分で自分の心を痛めつけちゃってる姿が痛々しい。5歳でそこそこ大人忍者とやり合えてるだけで相当すごい気がするのに……。

誰かの決まりやルールに誰もが縛られちゃう世界にあって、最終的には何者にもとらわれない子供らしさが勝因になる。決まりごとを否定するんじゃなくて、理不尽さや不合理さに膝カックンしてくのがいいし、歴代の劇場版シリーズで初めて野原家と春日部防衛隊が合流して戦うの熱かった。

普段はハードボイルドなしんちゃんが、両親や友達と離れて忍者の里に連れて行かれてしまう。しばらくは気丈に振る舞ってるけど、ひとりぼっちの寂しさに耐えかねてちょっと泣くシーン。からの再開してひろしと抱き合うしんちゃんが一瞬涙を見せたようなそぶりの後で、すぐに「とーちゃん、汗臭い」って照れ隠しするのが可愛い。ひろしも照れ隠しの憎まれ口を分かってて受け入れてる感じがまー泣ける。(平べったくなったオニギリを一人で食べるトコが妙に泣ける)


今回のキーマンとなる“しんのすけの本当の母親”ちよめを演じた川栄李奈。自分達にかかった呪いのような運命と、因習深い里の掟に抗いながら自分の可能性で戦う。強さと母親の慈愛を併せ持つ複雑な役柄を好演。責任感が強すぎて、何でもかんでも背負い込んでしまう。俯瞰してみれば、そのせいで大勢の無関係な人に迷惑かけてる。クライマックスでみさえの「ちゃんと助けて言え!」て喝がホンそれ。


余談)
恒例のお笑い芸人枠はハライチ。シリーズ通じても珍しい本人役で、しかも劇中のライブ用にネタを書き下ろしてる周到さ。本ネタなので、二人の掛け合いがガチなのがまたいいし、アニメ化された二人もネタに合わせて動いてるのがすごい。たぶんネタのシーンだけアフレコじゃなくてプレスコも一部使ってたような。力のかけドコロが本編と関係なくて笑う。

29本目
somaddesign

somaddesign