Kana

ピンク・クラウドのKanaのレビュー・感想・評価

ピンク・クラウド(2021年製作の映画)
3.7
ーその雲に触れると10秒で死ぬー
この現実をどうやって幸福(しあわせ)として飲み込むか、考え続けた103分でした。
「生きている」と言えるための条件とは 果たして何があるのでしょうか。




ポスターのビジュアルと映画の雰囲気に惹かれて 特に予備知識無しで鑑賞。知ってるのは予告にあった「突如現れたピンク色の曇によって 部屋の中に閉じ込められた人々・・・」 ということだけでした。その予告で勝手に コロナにインスパイアされて書いた作品だと思い込んでいたから コロナ禍以前に構想された作品だということ(2017年脚本制作、2019年撮影)が冒頭 テロップで映し出された瞬間、胸の中でドキッと心地悪く心臓が波打ったのを感じました。




 映画自体は突然の“ピンククラウド”の出現により家から出られなくなった男女の隔離生活を淡々と映し出しています。

一夜限りの関係だったはずのジョヴァナとヤーゴは部屋に閉じ込められることになり、自身について語り合うことになり、生活を共にするようになり、子供を育てることになり、、、状況の受け入れ方がまるで違う二人が共存している部屋の空気は重すぎて 息苦くて 雲なんてなくても死んでしまいそうでした。
想像だけでは満たされない、体験でのみ得られる満足、その先にある感動を あの隔離空間でどのように見出していけばいいのか、私なら この現実をどうやって幸福(しあわせ)として飲み込むか、考え続けた103分でした。


映画全体を通して、ピンク色の雲が空に浮かぶ様子は可愛くとても幻想的でした。こんな景色を見に旅行したいな、という考えがうっすら脳裏を漂いかけましたが、それよりも
コロナ禍以前にこの作品を観ていたら
どんな感想を抱いただろうか?
どんな感情が残っただろうか?
それらはもう想像すら難儀ですが、たぶん
恐いより先に 興味深いと
苦しいより先に 可愛いと
幸せとして飲み込みがたいリアルを
単なるファンタジーとして消化していたと
そんな考えが 心を丸ごと包み込みました。

ジョヴァナ(主人公女性)は出逢いが好きで、旅行が好きで、自分の時間をとても好きな人。そんな彼女が死んだ顔して生きていた物語終盤、果たして彼女は「生きている」といえたのでしょうか?
“生きるとは?”と問いかけてくる映画は他にも沢山ありますが、今作を観て喜怒哀楽、寒煖饑飽のバランスが何気に重要なのではないか、と思いました。そんな感情や感覚の均衡がとれている状態が最低ラインとして考えるのは 贅沢だ とも思えますが、人は贅沢な生き物なんだ、と認めざるを得ない気持ちに辿り着きました。








ーepilogueー
この現実をどうやって幸福として飲み込むか、鑑賞中、その答えを見つけられなかったのと、シネマカリテのシアター1が暑すぎたのと、隔離生活に付随する 混乱、不安、トラブル、ジョヴァナの憮然とした表情を驚くほど容易に想像(理解)できてしまったのと、、色んな原因が重なり  苦しくて仕方なかった。こんなにも映画館から早く出たい!と思ったのは初めてかもしれない。
地下にあるシアターから早足で階段を上る、そこにはすっかり暮色蒼然となった新宿の街があった。そこにピンク色の雲はなかった。当たり前だったけど、当たり前ではなくなった幸せに心の中で少し感謝して、私は横にいる友人たちと 感想を語り合いながら、歩き出した。

P.S.パンフレットについて
最後に感想では書ききれなかったけど 限られた状況、時間の中でフェミニズムなやり取りも感じられて、それはパンフレットを読むともっとじわじわ理解が深まって面白かったです。内容もエッセイや小説、詩などが掲載されている新しいスタイルでワクワクしました。監督インタビュー欄に記載があった” 自分にとってのピンククラウド ”についても今後考えていきたいと思いました。
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