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恋は光のエンバのレビュー・感想・評価

恋は光(2022年製作の映画)
4.3
舞台挨拶付完成披露試写会にて先行鑑賞しました。
恋する女子が身体から光を発しているように見えてしまう特異体質持ちの男子大学生の主人公と、彼を取り巻く3人の女子大生ヒロインが織りなすラブコメディ。
小林啓一監督の最新作である本作は、前作「殺さない彼と死なない彼女」に続き漫画が原作の青春映画です。原作は、少年・青年向け漫画誌であるウルトラジャンプで、女性漫画家の秋枝先生が連載していた同名作。小林監督は単行本全7巻に及ぶこの原作漫画のエッセンスを尊重し多く取り入れる一方で、映画独自の組替えや改変要素も盛り込み、「青春っていいな」「恋っていいな」と思わずにはいられない珠玉の青春映画に仕立てあげています。
「文科系哲学恋愛映画」なる風変りなキャッチコピーを公式様が打ち出していますが、その冠の通りに劇中の主人公達は、哲学者さながらに「恋とは何か」の問答を延々と繰り広げます。宿木の台詞にもある通り、傍から見れば「君たちは一体全体なにをやっているんだw」とつっこみたくなる、ある意味不毛ともいえる恋問答も、不毛なことにここまで思う存分心血を注げるのは若者(特に大学時代)の特権であることを思えば、これもひとつのリア充ライフであることに違いありません。
また、本来は西条君を巡る恋のライバル同士として、対立しても不思議ではない三人のヒロインが、成り行きとはいえ交換日記という媒体をきっかけにして、奇妙な共闘関係的友情を築いていく姿はなんとも微笑ましいです。
いやはや、青春をとうに通り過ぎた中年の私からすると、この映画のメイン4人の男女は本当に眩しいし、羨ましいですよ。

そんな彼らを演じるメインキャストは全員素晴らしいハマリ役でした。漫画やアニメならいざしらず、実写映画では浮いてしまっても不思議ではないキャラクター達を、よくぞここまで魅力的に演じてくれたものだと思います。
棒読みと観客に誤解されても不思議でない、西条の独特で癖のある喋り方を神尾楓珠さんは最初から最後まで見事にやり遂げていました。
西野七瀬さん演じる北代と、平祐奈さん演じる東雲に関しては、この映画の本公開後、もともと彼女達のファンであるか否かは関係なしにガチ恋勢が続出するのではないでしょうか。以前の舞台挨拶で小林監督が冗談交じりに口にされていた「ドラクエVにおけるビアンカかフローラか問題」ではありませんが、男性観客(もちろん女性観客も)を二つの派閥へ分断してしまってもおかしくはない、本当に素敵で可愛らしい二大ヒロインでした。
原作漫画のストーリーを2時間の映画に凝縮したことで、最も割を喰ったキャラクターとも言える宿木も、馬場ふみかさんのお陰で実にチャーミングです。

ここまでストーリーとキャストについて触れてきましたが、小林啓一監督の強みである映像の美しさも、過去作に負けず劣らず素晴らしかったです。人物も風景もとても綺麗に撮影がされていて見惚れてしまうシーンがいくつもあります。個人的イチオシは本作のクライマックスのひとつである、西条と東雲が倉敷の美観地区でデートするシーン。歴史とモダンが同居する幻想的街並みと二人のキャラクターも相まって、私の大好きな小説である森見登美彦さんの代表作「夜は短し歩けよ乙女」を思い出しました。吹屋をロケ地にした、東雲の自宅で北代と東雲が恋問答を繰り広げるシーンも凄く好きです。

総評として、ハマる人にはとてつもなくハマる映画だと思います。今年公開の邦画の中で上位に挙げる方も大勢出てくるであろう一方で、「何がいいのかさっぱり分からない」、「気持ち悪い」といった感想を持たれる方も少なからず出てくるのではないかと思います。分かれ目となりそうなのが、西条君(神尾楓珠さん)の非常に癖のある喋り方にどれだけ早く順応できるかと、メインの4人をどれくらい好きになれるか。
私にとってどうだったかを申し上げるなら、本作は2022年上半期公開の邦画の中で”陽”の作品のベスト1候補であり(”陰”のベスト1は「流浪の月」です)、年間でも上位に残るであろう大好きな作品です。
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