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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのnanaのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

『スイス・アーミー・マン』『ディック・ロングはなぜ死んだのか?(こちらはシャイナートのみ)』などのダニエル・クワン&ダニエル・シャイナートのコンビが監督したマルチバース・カンフーアクション映画。
上記の映画を撮った監督が、アカデミー賞最有力!?と、改めて驚いてしまいます。
ちなみに、この作品でも最もくだらない(褒めてる)役で自身が出演していました。

今作はマルチバースを描いているため、目まぐるしい映像表現とスピード感、画面の情報量にかなり面食らうのですが、根っこにあるテーマはある一家の物語です。
そのため、物語を見失うことはないので安心して観ることができました。

今作が面白かったところは、敵と戦うため異なるユニバースにいる自分の能力をインストールして使うことができるという設定です。
その際、異なるユニバースの自分にアクセスするためには変な行動をとる必要がある、という設定も面白い。
これは何かに挑戦するには自分の殻を破るんだ、ということのメタファーに見えます。
しかもその変な行動がリップスティックを食べるとか紙で自分の手を切る(痛い)とか、結構しょうもない奇行です。
ここで結構下ネタが多用されるのは個人的に乗れない部分でしたが。
そういうネタには走らずに「変なこと」を表現するのが面白いと思う。
ちなみに下ネタが多用されるドタバタ劇で最後は勢いと家族愛で感動させる、という点で今作はかなり劇場版クレヨンしんちゃんっぽいです。
ダニエルズは今作について、過去にしんちゃんにも関わっていた湯浅政明監督の『マインドゲーム』を参考にしたと仰っていたので遠くはないかも。

あぁ昨年ウォン・カーウァイのリバイバルに行っておいてよかったなと思ったシーンとか(あの独特のカーウァイ映像を完コピ!)、指ソーセージはどこまでも意味分からないなとか、『レミーのおいしいレストラン』ってそんな話だったんだとか、万華鏡のように映し出されるアイデアの数々が楽しい。
久しぶりのカムバックとなったキー・ホイ・クァンが、工夫して何か物を使っているところを見るだけでなんだか嬉しい。

例えどこのユニバースにいたとしても、私とあなたはどこまでも親子、母と娘である。
こういった今作の決着は、今現在親子の関係で悩む人や、つらい幼年期を過ごしたことで親を心底恨んでいる人にとっては結構つらい話かもしれません。
血縁が全てではない、さまざまな擬似家族を描く映画が昨今増えていますが、今作は逆に家族の固い繋がりを描きます。
これはきっと彼らが移民であることに大きな意味があるのだと思います。
「家とか家族が全てじゃないよ」と言えるのは、きっと移民ではない者の特権なのでしょう。
良くも悪くも、簡単にLINEをブロックするように切り捨てられないのが家族です。

くだらなくて楽しくて胸を打つ、最高にマッドネスなマルチバース・エンターテイメントでした。
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