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すずめの戸締まりのesoraのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.5
"想いの重さ"
それこそが命を繋ぐ覚悟

「うちの子になろう」
この言葉は決して単なる憐憫から出たわけではなくて、鈴芽を引き取るという選択が招くあらゆる犠牲をも厭わない環の強い覚悟が故であったし、飾られた家族写真や丹精込めて作られた弁当、溜まりまくった長文LINEからもそれは明らかだった。

にも関わらず鈴芽は「それが重い」と言い放つ。その言葉は環にはもちろん、ダイジンにも悲しく響いた筈だ。後ろ戸が開くのはいつだって心の重石が外れた場所。"重いからこその想い"であって、失って初めて気づくのでは切ない。

この国にいる以上、地震の恐怖は常に付き纏う。長く生きたいと願いつつ果たされなかった"ただいま" がある。見慣れた景色も廃墟になる、生きるか死ぬかは運次第。それでも生きていく勇気を、この映画は与えてくれる。

常世が対比的に示すのは、時の流れがあるということ。人々の想いに耳をすまして後ろ戸を閉ざし前を向くように、現実を生きる僕らにもきっと災害も乗り越える力がある。そうやって光の中で、強く逞しくなっていける。

震災というテーマに正面から挑みつつ、ロードムービー的側面が緩衝材として作用。美しい景色や懐メロなど細かい見所も多数。
笑って泣けて、圧巻の仕上がりだった。
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