Sora

すずめの戸締まりのSoraのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

隕石、大雨に次ぐ次なるテーマは地震。未だ多くの傷跡を残す題材だけに、扱いが難しいと思ったが、決して軽く扱うわけではないものの明るい終わり方に上手くまとめた印象であった。
古来より地震は大鯰が引き起こしているとされていたが、今作品ではそれが常世に棲まう大ミミズが原因とされ、大ミミズが現世へと現れることを後ろ戸を閉めることで防ぐ「閉じ師」である草太と主人公である鈴芽が出会うことから物語は始まる。
見終わった感想としては、珍しくハッピーエンドな作品だなと。前2作である「君の名は」「天気の子」では、隕石による山村の消失、大雨による東京の沈没と結末に至るために犠牲を伴わねばいけなかった。一方、今作では災いを鎮めるための要石として草太が人柱になりかけたものの、最終的には誰も犠牲になることはなかった。これは今作品が既に起きてしまった地震災害への鎮魂としての意味を持つためではないだろうか。作中では、後ろ戸を閉めることはそこに生きる人々の思いが成す行為として描かれている。戸締りという行為は単に地震を未然に防ぐものではなく、起きてしまった災いから立ち上がるための儀式的なものでもある気がするのだ。
そう考えるなら、ラストシーンの鈴芽の「いってきます」という台詞も辛い過去の記憶を受け止め、新たな始まりへと一歩踏み出すためのものであると感じとれる。
また、印象深いシーンとして鈴芽と叔母である環の言い合いがある。お互いに胸の奥底に仕舞い込むべきであった感情をぶつけ合ってしまう場面は、2時間と言う短い物語の中でも、特に感情を揺さぶられるものであった。
ただ、今作品はキャラの深掘りが少々甘かったようにも感じられた。特に草太は「閉じ師」という代々伝わる特殊な役目を背負っているのだから、閉じ師であることへの信念のようなものをより出しても良かったのではないだろうか。同じ閉じ師としての祖父は出てきていたが、年齢的に東日本大震災が起きた時は父親が当代だったりしたのかなと考察してみたり。だとすると父親は大震災時の戸締りを失敗したことで亡くなったのだろうか、など深掘ろうとすればまだまだ掘り下げられる気はする。
他にも、今までは瀧→三葉、帆高→陽菜と少年が少女のために奮闘する物語であったのに対し、鈴芽→草太と少女が青年のために行動する点も異なっている。鈴芽自身が被災を経験していることが行動の動機となっているのだろうが、もう一歩踏み込んだ理由が欲しいと思う。
最後に、本作品のメインテーマは震災であってラブコメ要素はサブテーマである。そのため、演出の1つ1つは良いものであるが、鈴芽、草太、両者とものお互いへの恋愛感情にいまひとつ乗り切ることが出来なかった。とは言え、演出や描写は高クオリティであるので、そこをより練って1クールアニメなどにしたらかなりの作品になるのではないだろうか。
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