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すずめの戸締まりのuyのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

その土地に地震という災いを齎す後ろ戸。それを閉じつつ、椅子となった草太を元に戻すべく猫の"ダイジン"を追いかけ日本列島を横断するロードムービー。

まずは良かったところから。
「すずめの戸締まり」というタイトルが序盤と終盤で違う意味を持つ構成は前2作にはなかった試みで良かった。個人的に物語の中でタイトルが出る瞬間というのがめちゃくちゃ好きだから、否応なくテンションをぶち上げられた。
作画も前作前々作と同様かそれ以上に美しく、特に以前にはなかった常世のファンタジー風景が異界の雰囲気を十二分に感じ取れて100点の出来だった。
特に好きなシーンは、ミミズが東京上空に顕現するシーンで、あそこは今作の中で一番テンションが上がった。チェンソーマンの銃の悪魔登場シーンとかもそうだけど、得体の知れない化け物が降臨するシーンってどうしてこう心惹かれるんだろうな。
草太の「命がかりそめだとは〜」のセリフ、すずめの幼少期の自分に対するセリフの2つはは本編を経たあとじゃないと出てこないセリフという質感があるので好き。
「戸締まり」というモチーフのハマり方も凄くて、行きて帰りし物語という構造を旅立ちと帰郷のメタファーを含んでいる「戸締まり」という行為で示しているのも好きだし、そういう作品の締めのセリフが「おかえり」なのも好き。それだけじゃなくて戸締まりを「思い出に鍵をかけ、前に進む」物として扱ってるのも好きな手つき。

良くなかったところ。
正直に言えば色々あるが、一言で言えば「要素が多すぎてどれも語りきれず、中途半端に終わっている」ところだろう。
ロードムービー、ラブストーリー、椅子になる草太、叔母との関係性、ダイジンやサダイジンの思惑や閉じ師の歴史…等々本作にはたくさんの要素が登場するが、正直にいってどれも扱いきれずに終わってしまったな、という印象が強い。ロードムービー要素はやりたいなら1クールくらいの尺が必要だったなと少し消化不良に思ったし、椅子になり駆け回る草太に関してはいらないと思った。確かにコミカルで画面の面白さはあったが、すずめに閉じ師の役割を引き継がせる、という意図はわかるものの、それがとにかくラブストーリー要素との噛み合いが悪い。どちらかの要素───個人的には椅子の方───を削るべきだったと思う。あとはダイジン・サダイジンについてだが、ダイジンに関する終盤のどんでん返しには意表をつかれたものの、ダイジンというキャラクターの説明が不足していて(猫に閉じ込められた子供なのか、神様なのか?謎)(前者だとしたら悲し過ぎる結末である)、そのせいで最後の「要石に戻る」という行動に感情が追いつかない。またこれについてだが、前作「天気の子」で 世界か彼女か というテーマをやったわけだが、それに対して今作では なんやかんやでダイジンが要石に戻ってくれて全て元の鞘に収まる という展開なのはいささか不誠実……というのは言い過ぎだが、それに似た感想を抱かずにはいられなかった。現実と地続きのテーマである以上世界を壊して終わり、に出来ないのは理解できるが、そうじゃないにしても(例えば閉じ師固有の力が失われるとか)何かしら代償を負って欲しかった。
そして前述した要素を全て使ってストーリーを成立させるために若干無理のある流れになっているところがいくつかあった(ダイジンをSNSを使って追跡するくだりなど)のもマイナスになっている。

……かなり苦言を呈す形になってしまいましたが、個人的にはプラスマイナスで言えばプラスという感じの映画です。一応。
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