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すずめの戸締まりのaskのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.9
観客に、想像させる。
そして、観客が「おかえり」ということで物語が完成する。

説明不足な点は否めないし、疑問も残るのだけど、それ以上に観客の想像と記憶に賭けた作品だったな、ということに感動してる。震災の描写だけでなく、その土地の人との触れ合いや思い出、というものを、ほんとうに私たちは想像するしかない。息づかいや、その土地に溢れていたはずの「いってきます」「いってらっしゃい」の愛を、私たちはただ想像する。自分の記憶に照らし合わせて。それに新海監督は賭けたのだ、と感じた。

愛を探し、出会う喜び。3.11の日に、失ったもの。その痛みや悲しみ、苦しみ、葛藤。色んな感情が、きっと私の記憶の底にも眠っている。その引き出しを開けて、ひたすら気持ちに同化する。その作業がしんどいし、それを求められるから疲れてしまったり、何を求められてるのか分からなくて、訳が分からないと思う人も多いと思う。

エンタメとしては成功してるとはあんまり言えない。でも、映画や本というものの素晴らしさって、たぶん"想像"させることで。同じ記憶なんて私たちにはないはずなのに、それぞれの記憶に眠る感情を呼び起こしてくれるから、感動が生まれる。だから、その素晴らしさを改めて教えてくれた新海監督に愛と敬意を。
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