エイプリル

すずめの戸締まりのエイプリルのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

地震という日本人にとってあまりに身近なテーマすぎて序盤はやや安直なイメージがあり、起きる事件に既視感があるシーンが多くて眠たくなることもありましたが、神戸くらいからかなり面白くなってきます。しかもかなり展開が早いので、面白くなるまでもあまり待った感じもありません。
ビジュアルとキャラクターの動きが良いことはもちろん、シーンごとの演出もものすごく良くて、映画を見終わった時の「すごくリッチなものを見た」感は随一でした。映画館でフルプライスで視聴したとしても全然後悔しなかったと思います。

映画を通して展開する話はかなりスケールが大きいのですが、その中で描かれているのはすずめにとっての喪の作業、母との別れという個人的な話だったのもかなり好みでした。その方法が「現代のすずめが過去のすずめを救う」という、まあ結構よく見る話ではあるのですが、この展開がめちゃくちゃ好きなので終盤はかなり興奮しながら見てました。
嘘みたいな善性の塊の芹澤も良かったし、最後の最後で出てくるキスのギミックも良かったです。
あと、すずめが新海作品で最も可愛いキャラクターです。主体的に動くし言葉選びも良いし、声優の演技もめちゃくちゃ良かったです。

個人的にかなり楽しめましたし新海誠監督の作品では一番好きなのですが、一点だけ気に入らなかったのはダイジンの処遇でした。
あれだけ健気にすずめのために頑張ってきた上に「嫌い」とまで言われてその後特にフォローもなく、また自己犠牲の上でみんなを救ったことがあまりに救いがなさすぎるというのも悲しかったのですが、それ以上に作品全体で見た時の大きな引っ掛かりにもなっています。
このダイジンというキャラクターとすずめの関係性は意図的にすずめとすずめの叔母との関係をオーバーラップさせるために作られたと思われるのですが、そうだとすれば、最後まですずめを見捨てなかった叔母さんに対して、すずめは「ダイジンを見捨てた」ということになってしまいます。つまり自らの子を捨てるという展開になっていて、何のためにオーバーラップさせたのかよくわからないことになっています。
ダイジンが要石になることについては特にどうにも思ってなさそうなすずめの態度も嫌だったな…。
この監督の他の作品でもそうなのですが、どうも「現状維持」「元の日常を取り戻すこと」を圧倒的に是とする傾向があり、今回もダイジンの自己犠牲をそれほど大きく取り上げることもなく「元に戻って良かったね」程度にしか考えていない感じも勿体なく感じました。
せっかくド派手な映像を用いた映画なのだから、神の封印で終わらずに永遠に復活しないくらいの徹底的な神殺しをしてほしい気持ちもありました。最近の作品は神殺しまでを描いたものが少なく淋しく思っています。

とはいえ個人的に嫌だったのがそこだけで、誰にでも相当おすすめできる作品でした。ラストの行ってきます、も初見時は意図を図りかねたのですが、あの言葉自体が地震や災害などへの一種の反抗・復讐になっていると考えると腑に落ちるラストシーンでもありました。おすすめです。
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