カタパルトスープレックス

生きる LIVINGのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.8
イギリスを舞台とした黒澤明監督『生きる』(1952年)のリメイク作品です。オリジナルが143分だったが、リメイクである本作は102分となっています。オリジナルは(良い作品だとは思いますが)無駄が多いし説教くさい部分もあったので、尺を短くしてシャープに描くことでどこまでアップデートできたのかが評価ポイント。

オリジナルの『生きる』はとてもいい作品ではあるのですが、黒澤明監督特有のヒューマニズムに基づく説教くささが鼻につく作品ではありました。特に後半の役人批判は安易だなあと。脚本のカズオ・イシグロはオリジナルに忠実でありつつ、アップデートすべきはアップデートしたところが好感が持てました。

オリジナルもリメイクである本作も主人公がガンだと知ってから①メフィストフェレス的な小説家に夜の世界に誘われる、②対照的に太陽のような明るさを持った若い職員に魅せられる、③生きる意味を見つけて駆け抜けるという3部構成になっています。

違いは主人公(ビル・ナイ)が死んでから振り返る③から説教くささが抜かれています。オリジナルの主人公である渡邊(志村喬)は取り憑かれたように周りを説得する鬼気迫った迫力がありました。しかし、本作の主人公ウィリアムズはとても静かに周りを説得します。これが最後の違いにつながる。最後の違いはネタバレのコメント欄に。ボクは最後の展開はリメイクの方が好きです。

しかし、①と②に関してはもうちょっと手を加えてもよかったんじゃないかと思います。オリジナルの場合、①のメフィストフェレスの役割を演じるのが伊藤雄之助で、とても悪魔的だった。だからこそ②の太陽のような若い女性の小田切みきが活きてきたんです。ところが、リメイクの場合、①のメフィストフェレスの役割を演じるのがトム・バークであまり悪魔的ではない。②の太陽の役を演じるエイミー・ルー・ウッドがいいだけに、勿体無い。

ボクは①は蛇足だなあと感じていたので、リメイクではいっそのこと削ってしまえばよかったのにと思っています。だって、生きる意味を見つけるには②だけで十分なんだもの。