トクナガ

生きる LIVINGのトクナガのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
2.0
黒澤明の『生きる』は個人的にもとても好きな映画だが、そのリメイクである本作は完全に駄作だと思う。

まず主人公がなぜ女性との会話で真剣に仕事に取り組もうと思ったかという理由づけが弱いところに違和感があった。恐らく女性に対してガンであることを告白したことで踏ん切りがついたという筋書きなのだろうけどあまりにも動機が弱すぎる。オリジナルの場合はおもちゃ工場で働くように何かを形に残す仕事をしてみたら?という実践的な提案があったからこそそれを実行したという流れがあるのに、リメイクではおもちゃはゲームセンターで獲得したものを出しただけで飾りでしかなかった。もしかすると海外においては翻訳の問題でこのあたりのセリフの機微が通じずリメイクでもそのあたりがおざなりになってしまったのかもしれない。

あとラスト付近で新入社員に手紙を送るというエピソードも蛇足になってしまっていた。手紙で説明してわかりやすくしたかったのだとは思うが、それで主人公の信条を説明してしまったことにより情緒が完全に吹き飛んでいる。なぜそこまで仲も良くない新人に手紙を送るのかというのも謎だったし、やるならもっと新人との関係性を描くべきだったと思う。

冒頭から新人を出すという作りだったのでそのあたりのアイデアはオリジナルの素朴すぎる流れに比べ起伏を出せているという点で良かったと思うが、細かい部分がおざなりで新しいアイデアも不発に終わってしまった作品だと感じた。オリジナルにあるような機微を捉えきれていないので駄作としか言えないわけである。
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