メランクさん

東京2020オリンピック SIDE:Aのメランクさんのレビュー・感想・評価

東京2020オリンピック SIDE:A(2022年製作の映画)
5.0
商業化したオリンピックに対する嫌悪感と
この国のオリンピック招致に関する不信感がそもそも強くあり、
コロナ以前から一貫して東京オリンピックに反対していました。
オリンピック期間中は国外に行くことすら本気で考えていました。

だから河瀬直美が記録映画を撮るって聞いてもキモって思うだけだったし、
まず見ようなどとは思ってなかったです。

ただなかなか攻めた内容というのを聞いて、
だったら見てみたいかなぁと思いました。

実際にこのside Aを見た感想は、
これ本当に公式記録映画なの?これでいいの?ってことでした。

たしかに五輪礼賛にはなってないし、
五輪のことを撮ってはいるんだけれど、
開会式の白けた描き方やポイントの絞り方が独特で、
少なくとも今作だけで大会の全体像などわからないし、
いわゆるハイライトになってない。

もちろんオリンピック自体がこれだけ巨大なものになってしまった今、
そんなものを作るのは不可能だし公式もそんなもんを求めてたわけじゃないのかもしれない。

いずれにしても河瀬直美にある程度自由な裁量が認められてたことが見てとれ、
イランからモンゴルに亡命した柔道選手や
政治的発言でバッシングを受けても自分を貫くアメリカのハンマー投げ選手。
そして育児を理由に代表を引退した女子バスケ日本代表選手と
特例的に子どもを連れて参戦してるカナダ代表選手など、
実は取り上げてる選手の意味を考えれば、
河瀬直美がこの五輪に何を見てるのかがわかる。

国を背負うこと、政治的主張をすること、
そして女性として、自分を貫くこと。
はっきりと言葉にせずに突きつけてくる。
ものすごく河瀬直美を見直したよね。

それで私は見ていてけっこう泣いてたんだけど、
アスリートにはなんの罪もないんだし、
彼らは彼らなりの理屈で五輪を待ち侘びてきたし、
それを本当は私だって涙流して応援したい。
でもオリンピックが嫌いすぎるから、
彼らを真正面から見ることができない。
日本人の金メダリストの名前を1人も挙げられない。

なんでこんな不幸なことが起きているのか?
本当に虚しい気持ちを感じつつ、いい映画だったと思いました。