このレビューはネタバレを含みます
ファスビンダーの『第三世代』のOPが、画面の中にモニターがあって、ブレッソンの『たぶん悪魔が』のラストシーンを流しているところから始まったのはビックリしたけど、本作もハル・アシュビーの『チャンス』のラストシーンを映したのでびっくりした。あのラストは、ちょっと普通のラストと違って(エッ!)って観客が思うタイプだから、よくOK出たなあって。
1981年という時代背景の中で、映画館で働く女性と黒人青年の恋を中心に描く。
オリヴィア・コールマン演じる中年女性ヒラリーは、統合失調症を薬で抑えているらしい。その分生気はないが、穏やかに見える。
シネコンもまだない時代。舞台のような映画館はもうすでに、斜陽もいいところで、豪華な装飾の幕や弧を描く階段が逆にうら寂しく見える。
またサッチャーイズムで差別の風が吹き荒れ、新入りバイトの黒人青年スティーヴンは、坊主頭の白人に絡まれることが多くなったという。お互いの優しい気性に惹かれていくヒラリーとスティーヴン。
統合失調症の苦しみ、差別の恐怖、フィルム上映の映画館の末期が同時進行で描かれる。人生ってひとつの問題だけを抱えるわけでなく、複数の問題がそれぞれの心の割合を違った分量で占めながら進んでいくので、とても良い描き方だと思う。こうやっていろんな問題が起きながら人生は進む。
フィルム上映、巻をつながないで一巻ずつ上映するんで、大変だなあと思った。映写機の作りが一貫程度しか入らない枠がついてたから、ああいう忙しい上映しかできない映写機もあったんだな。
ひとりでお店で入って、ワインを飲みながら読書する女性は素敵だ。ヒラリーは孤独だけど、本当に素敵な女性。統合失調症の人は少なくないのだから、病気とうまく付き合っていってほしい。