Ayumi

TAR/ターのAyumiのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.0

「芸術」と「芸術家」を別のものとして考えることはできるのだろうか?尊大でエゴイストな人間でも素晴らしい芸術を作ることはできるかもしれない。しかし、現代では同僚に暴力を加えた人間は制作現場から解雇されるし、倫理に外れたことをしたと見られればキャリアを剥奪される。私たちは、そうした人たちの作った芸術を、享受していいのだろうか?

リディア・ターはドイツのオーケストラの有名指揮者。実力がある一方尊大で、演奏に物を申した部下は解雇するし、自分が気に入ったチェロ演奏者がオーディションで通るように小細工をする。同じように昔よくした演奏者が自殺すれば、自らへの告発の証拠を隠滅する。こうした行為が明るみになるにつれ、周りの人間が離れていき、キャリアは奪われる。

この映画が問うのはキャンセルカルチャーの是非だけではなく、権力を持つものがその力を失った時、どう自分を取り戻していくか、ということだと思った。とにかく観客を考えさせる映画。そしてケイト・ブランシェットの堂々とした指揮者ぶり、精神を病んでいく演技が素晴らしい。
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