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TAR/ターのFrengersのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

今年の一本であり2020年代を代表するであろう作品。興奮で胸いっぱいになりながら映画館を出た。

一番影響を感じたのはシャンタル・アケルマン。特に痺れたのは『ジャンヌ・ディエルマン』の影響。似たようなシークエンスを続けながら、その差異や省略した何かが徐々に前景化するという一連の流れ。リディア・ターが夜何かの音を聞きつけ一人目覚める場面、もしくはトンネルを走る車のシーンにおける長回し/短いカットと座席の位置の変化、等々。
そしてこの持続していたものが徐々に細切れになっていくor別のものに恣意的に変えられていくという大枠は、歴史認識や文脈という理解が通用しなくなり部分を切り取ることによって拡散していく現代の象徴に他ならない。一番わかりやすいのは序盤のマックスを指導する場面の凄すぎる長回しが切断され告発動画に様変わりする所。リディア・ターが語りかける言葉は西洋音楽史における歴史と文脈の必要性にも関わらずそれが切断し、別のショット(主に他者の視点)が加わりながら糾弾するものにかわっていくのはあまりにも暗喩的だった。と同時にオルガを好意的に捉える背景にあったインターネットの良い側面だけを見ていたという皮肉も効いていて、一方だけを称揚することの危険さもある。(そしてアジアのマッサージ店における一人を選ぶことの反復)

前半のインタビュー・シーンにおける対話場面も徐々に細切れになっていく。そして鏡の配置の見事さ。足元手元のショット。そして反復しながら反転していくという大枠のストーリー。158分撮る必然が間違いなくある。映画館で見ることが出来て良かったと心底思える作品だった。
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