双葉レイ

TAR/ターの双葉レイのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

初見で観終わった後は「微妙かな~」という印象だった。
スタッフロールから始って変わった構成だな~と思いつつ開始早々に小難しいインタビューの長回し映像が入り、ケイト・ブランシェットの演技は凄いな~と思いつつも画面があまりにも動かなくて大丈夫かなと不安になった(あえて観客にストレスを与えるような構成にしているのか?)。
また、これは自分の理解力の悪さもあるが登場人物の名前と顔が一致せず、状況描写も最低限しかない場面も多かったので何が起こっているのか理解に苦しんだ場面も多かった(フランチェスカとクリスタの関係性とか、リディアのメールでの根回し活動など)。
そんなこんなで観終わった直後は微妙だなと思ったが、一晩経って妙に「リディア・ター」という人物が心に残った。

「キャンセルカルチャー」という一言で片付けてしまって良いのか少し悩むが、才ある人が堕ちていく描写はなんとも言えない悲しさを感じてしまう。
才能という「長所」があるのであれば、それと同等の「短所」は人間であれば誰だってあるものではないか。真摯に音楽に向き合う描写が多かったのもあり、それが途中から全く評価されずに転落していく描写については納得できない理不尽さを感じる。こうなってくると、やはり短所を増幅させるようなキャンセルカルチャーは衆愚としか思えない。

もちろん、ライバルを社会的に追い詰めて自殺に追い込んだ点については弁解の余地はないし、この一点だけでも社会的に「排除せよ」という流れになるのは否定できないのが難しいところではある。この辺を考え出すと人間の限界みたいな話になってしまい、現代社会ではどうにもできないのだろうかと思考が堂々巡りをしてしまう。

とはいえ、明確な描写はないものの出張先で毎晩いろんな女と遊んでいる的な描写もあり、その辺が描かれていないから余計に音楽に対する真摯さが全面に出ているのかもしれない。これが女遊びの描写もネットリと描かれて、リディアの欲望がまた違う形で描写されていたら印象もまた変わったのかもしれない。

結局、この映画も「リディア・ター」の一側面しか描いていないと考えると、なんとも評価というか自身の感情の置き場をどうしたら良いのか悩んでしまう。
そういう構造的にも複雑な映画で心のモヤモヤがずっと残っている。
双葉レイ

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