れーちゃん

TAR/ターのれーちゃんのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.5
マエストロを「マエストラ」とはまだ言わない。そんな現代においてオーケストラで指揮者として、そして作曲家として生きるリディア・ターの生きる世界線を描きながらも、「SNS社会における現代の縮図」を表現していたような作品だった。

リディアはマーラーの交響曲第五番の演奏と録音にとりかかりながら、新しい曲作りに勤しんでいた。
時に音楽院生に指導することもあるが、偏りのある生徒の発言に対してもパワハラを恐れるどころか論破する。
そう。リディアはまさにカリスマ的存在なのだ。 

そんな彼女をマネージャー視点で支えるのはアシスタントで見習い指揮者であるフランチェスカ。彼女は恐らく、リディアに憧れと恋心を抱いている。
フランチェスカはリディアに尽くしていたが、オケの次期指揮者に選ばれなかったことからリディアの元を離れていく。

リディアには同じフィルハーモニー内の第一バイオリニストであるパートナー、シャロンと養子のペトラという娘がいて、家族は円満なように思えた。
しかし、リディアのことはなんでもお見通しなシャロンは、フィルハーモニーに新たな風が吹いた途端、リディアの心境の変化を感じたのだった。

他にも登場人物はたくさん出てくるが、皆LとGだというところも注目してほしい。

冒頭から始まるSNSの描写は「誰が言ったか、やったかわからない恐怖」という、現代社会ならではの脅威だ。
誰と誰がやりとりしていたか、誰が言ったか、ということも結局最後までわからない。
今は、誰かの作ったウソを人は簡単に信じてしまい、そのウソが誰かの人生を簡単に壊してしまう時代だ。

リディアがこれまでしてきた権力の行使とも言える行いが仇となり、パワハラ扱いされたことによりあることないこと言われた結果、キャンセルカルチャーとして社会から追い出されてしまう。

作品全体としては、昨今におけるSNSの脅威に翻弄された人々のキャンセルカルチャーや、#MeToo 運動などのハラスメント、男女平等ではない現代社会に対する問題提起など、数多くの議題が散りばめられている作品だと、私は感じた。

「人は自分の見たいように物事を見る。」
これはトッドフィールド監督が前作「リトル・チルドレン」で大きく扱っていたテーマだ。
その裏には一人一人の孤独や侘しさ、弱さがあるのだということを並行して描いていた。

今作におけるリディアの描き方にも、その視点が入り混じっているように見受けられる。
トッド・フィールドは本作に対する自身のインタビューでも「我々はみんな自分のレンズでしか物事を見ることができない」と言及しているくらいだ。

SNSは誰と誰だったのか?
あのシーンは一体なんだったのか?
ラストのシーンはポジティブなの?
という様々なQがたくさん生まれるし、まだまだ書きたいこともたくさんあるが、是非語れる機会に意見交換したい!
れーちゃん

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