ごんす

TAR/ターのごんすのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.9
前半映画館で観た時の愚痴です。

ただでさえ一度で全て読み取ることは不可能に近い映画に思えるが劇場内に独自の鑑賞スタイルの者が多すぎて集中力が持たなかった。
元々集中力には自信がないのに…

後ろの席の人がずっと舌を鳴らし続けてうるさくて途中から席も蹴りだした。
少し耐えたけど一回蹴りが強く感じて反射的にエルボーで応戦してしまった。
蹴るのは止めてくれたのだけど、また舌をコッ!コッ!と鳴らし始めた。

4個ぐらい隣の席の人も前の席に誰もいないからって足乗っけててびっくり。
何回か織田裕二みたいな声のあくびも聞こえてきたしテーッと走って出ていく人もいたり。
なんで何人も目立つ人いるんだろ。
「この映画館、何かがおかしい」という内容でホラー映画が作れそう。
かなり集中力を削がれた鑑賞になってしまったので配信でもう一度観たら凄く面白かった。

やっとここから映画自体の感想。
微ネタバレありかも。

決して誉められたものではなかったり罪を犯したとされる人間を罪人という括りではなく一人の人間として語ってみせるのはトッド・フィールド監督の過去作『リトル・チルドレン』でも感じた。
それが別に本当は善人!というおしつけでもなく、嫌だと感じるところはやはり嫌な感じで主人公リディアに対して思うことは複雑。
自分は思った程はリディアに嫌悪感は抱かなかったけれどケイト・ブランシェット好きなだけじゃね?という気もする。
彼女が行ったと思われる行為を考えるとやはり許せない気持ちもある。 

前半のとても長いインタビューとか圧巻。別に面白くはないんだけどよくここまでやるなと感心。
何観てるんだろと一瞬思った。

リディアという人物を徹底的に見せられるのに計算し尽くされたかのように描かない所は描かないので一回彼女に対して思ったことの後に必ず心の中で「でも…」と思わされる。
安易に答えを与えてこないので思考を停止させない。
日本でも身近な話題になっているキャンセルカルチャーについて今一度考えるきっかけとなる。

権威を持った男性が失墜する話は今までもあったけど本作はそれがレズビアンの女性という設定。
この企みはじわじわ効いている気がする。
もしこれが男性主人公だったらと考えると正直同じ観賞後感にはなっていないかもと思った。

随所でホラー味のある演出が印象的で怖かった。
同じアパートの住民の女性の老いた母親が死んでいる所やランニング中に森のような所で悲鳴のようなものが聞こえてきたり。
キャンセルされる立場にある彼女の心象風景としても秀逸。

凄い色んな観方をできる映画で謎も残るが副指揮者をクビにする時に言い放つ「私たちの家は指揮台だよ
スーツケースを持って旅をするのが指揮者だ」
という後に自分に返ってくるような台詞や終盤から衝撃のラストを思い出すとシンプルに再び音楽と向き合うリディアの物語としてこれ以上ないくらい起承転結がしっかりしている様にも捉えられる。
また何回か観たいと思った。
ごんす

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