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モリコーネ 映画が恋した音楽家のやぎのレビュー・感想・評価

3.1
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を観てきたんだけど、エンニオ・モリコーネの経歴と思想を見渡すのに最適な面白い映画でした。

モリコーネはどういう音楽的影響のもとで作曲しているのか、有名曲がどのような考えで作曲されたのか、映画音楽についてどのように考えてきたのか等がよくわかる。

モリコーネの師匠格はゴッフレド・ペトラッシで、影響系としてはストラヴィンスキーの流れにある。そしてダルムシュタット夏季現代音楽講習会で、ジョン・ケージのパフォーマンス観て感銘を受けたりもしたので、現代音楽の血脈がモリコーネには流れ込んでるんだよね。映画音楽もその前提で作られてる。

モリコーネの映画音楽といえば『ワンス・アポン・ア・タイム・アメリカ』や『ニュー・シネマ・パラダイス』のシンフォニックでメロディアスな感じを連想するかもだけど、彼の作ってきた色んな映画音楽を聴くとノイズや具体音を巧みに使ってることがわかる。ジョン・ケージ的なパンク精神があるのよね。

一方で、ある種のアカデミックなヨーロッパ現代音楽の世界にいたから、「映画音楽家」という職業をしていることが、「大衆迎合」と捉えられ、冷たい視線を浴びることもあり、モリコーネ自身も引け目を感じ、映画音楽家を辞めることが常に念頭にあったというのは興味深かった。

でも、モリコーネが現代音楽のに触れていたからこそ、彼の映画音楽の自由さがあったわけだ。知識があったからこそ、それを使うことも無視することもできた。アカデミズムへのアンビバレントな意識が彼を苦しめつつも、彼の大きな特徴となっていたことを考えると、なかなかに皮肉なこと。
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