梅村

アンネ・フランクと旅する日記の梅村のレビュー・感想・評価

4.2
『アンネの日記』に登場する彼女の架空の友達"キティ"。
本作はそんなキティがとあるきっかけで現代の世界、オランダはアステルダムの博物館『アンネ・フランクの家』(アンネが当時、迫害から逃れるため2年間隠れ家として使用した場所)に復活し、親友のアンネを探して街に出るという筋書きなのですが……。


もう、設定の段階で辛いです。
取り扱っている題材も勿論なのですが、個人的にイマジナリーフレンドものにすごく弱いのもあって、後半は悲しくて悲しくて仕方なかった。周囲の人々の反応で薄っすらと真相を悟りつつ、図書館で日記の"その後"を知ってしまった彼女の涙がとにかく哀しい。国、文化、歴史……いろんな事情があるにせよ、一つの歪んだ思想が、15歳の少女の命を理不尽に喪わせた事実を痛切に突きつけられます。


皮肉にもその悲劇的な運命が故に、著名な作家になりたいという彼女の夢は叶いました。
作中の台詞にもあります。「彼女は最も若く、そして最も有名な作家の一人になった。」80年近く語り継がれ、街には像が立ち、アステルダムには至る所に彼女の名前が残る。アンネ・フランク通り、アンネ・フランク橋、アンネ・フランク劇場、アンネ・フランク学校、アンネ・フランク図書館、アンネ・フランク病院………。
でもきっと、彼女が望んだのは自分の名前を残すことじゃなく、日記のメッセージをこそ現代に伝えること。そして本当は、迫害の中を生きる手綱として自身の想像力を使うのでなく、何より生きて自由に創作すること……だったのでしょう。当たり前に生きて、多くのベストセラーを残した高名な作家の名前として記憶されるアンネ・フランク。そんな世界が、切にあって欲しかった。


Where is Anne Frank.
I am here.
梅村

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