このレビューはネタバレを含みます
彼女にはこれらの音は聞こえていないと、たびたび想像しながら観る。とても森閑とした別の世界が本当はそこにある。映画が二重に思える。
「彼女は目がいい」というのは、野球選手が調子が良いと、ボールの縫い目が見えるような鋭利さなんだろうか。
最近の映画の聾唖者の字幕があったり、消えたり、その場で声にする人がいたりという、その都度の適当なやり方はスマートで良い。特に聾唖者の女友達たちと語らうシーンは、手相を見たりしてたいした話をしていないから、内容がわからないのが逆に楽しい。
荒川は悔しいほど16mmに似合っていた。わざわざイチロクで撮ります、というのが荒川の遠景にはまっていて、なんだか憎らしいほどだった。柳町光男も夢じゃない感じ。
特別な話ではない。少し浪花節な物語だ。途中までそれについてはちょっとしんどかった。でも最後に、土手でヘタれている岸井ゆきのにある人物が声をかける。すごくいい職業設定。そのあとの岸井の表情の巧さに目を奪われる。かすかな目の動きもつぶさに観察したくなる表情の動き。