DJあおやま

ケイコ 目を澄ませてのDJあおやまのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
3.5
耳が聴こえないというハンデを持つプロボクサーが自身の実力に限界を感じつつ、所属するジムの閉鎖や母親の心配などを通じて起きる、彼女の心のざわめきを静かに描いた作品。16mmフィルムのザラついた映像に、劇伴がなく町の喧騒や生活音が印象的。
主人公のモノローグがなく、不器用で感情を表に出さない。悩みがあっても、それを誰かに話しても解決しないからと自分の心のなかにしまい込む。弟はそれを強いと評するがそうだろうか。
ケイコの頭の中が記されたノートを、会長の妻が音読する。ここで衝撃の事実や意外な言葉があるわけではなく、ただストイックにボクシングや目の前のできごとに向き合うケイコという人物が表れている。この感情の発露に、なぜだかぐっときた。話す言葉や表情、身振り手振りでアウトプットされるものが、その人の考えることや感情のすべてだと思い込んでしまうが、そうではなく。どれだけアウトプットの少ない人の頭のなかにも、無限の宇宙が広がっていることを忘れてはならない気がした。最後まで多くを語らないケイコは何に思いを馳せるのだろうか。自分を殴った対戦相手の悪意のない笑顔を見て、走り出すケイコ。このラストシーンが印象的。
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