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ケイコ 目を澄ませてのシノのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
3.3
難聴の主人公ではあるものの、例えば健聴者であったとしてもボクシングというマッチョイズムど真ん中のコミュニティの中で文字通り「強く」あり続けようとするのがなんと難しいことかと胸が苦しくなりました。
難聴である事で受ける差別や理不尽、難聴である事で聞かずに済んだ暴言もあるけどケイコは不満を漏らさない。それに対して強いとか偉いとか思うのは健聴者の傲慢と驕りだと思いました。

チャイムが鳴ったらフラッシュが連動するとか、目覚ましと連動して扇風機が付いて風で気づくとか、コロナ禍のマスクで口や表情が読めないとか、よく考えたらわかる事が表現にあって勉強にもなりました。ケイコにゆっくり大きく話してるつもりでも健聴者は頭を振りながら話しちゃうからそれ読唇しづらいでしょ…とかも。

警官が帰った後橋の下を歩くシーンや、最後土手を上がってランニングしだすシーンや、ジムに埃がきらめいてるシーンや、瞬間を切り取って美しいシーンがたくさんある映画って好きだなと思いました。

女性がボクシングをする映画、ミリオンダラーベイビー、100円の恋に続いて今作だけど全部暗いというか…実際問題女子ボクシングがサクセスにならない人気も少ないこの世界で明るく女性がボクシングやってる映画はそりゃ嘘なんだろうけど、あまりに華々しさが男性のそれと違いすぎて悔しくなりますよね。「力」がエンタメや賛美の対象になるのが男性目線がとても多い。
この映画の中でも(わざとだろうけど)その構造を強化する出来事が散りばめられていてきつかった。ケイコはもっとだろうな。
(「女ばかり指導してる」とジムを辞めた学生はわかりやすいけどインタビュー受けてる会長も「男顔負けの」とか「女の子だからダイエット目的かと」とか無意識に女性蔑視はある)
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