きらきら武士

X エックスのきらきら武士のレビュー・感想・評価

X エックス(2022年製作の映画)
3.8
70s名作ホラーのオマージュ満載!
“真心のこもった”強烈スラッシャー映画 

BANGER!!! という映画情報サイトの上の記事見出しに吹き出してしまった。でも、本当にそんな感じの、真心のこもった「古式ゆかしい」スラッシャーホラーだ。
過去の名作へのオマージュもふんだんに、映画のお作法に忠実に則り、仕掛け作りにも余念がなく丁寧に作り込んでいる。これを真心と呼ばずして何と呼ぶ?

冒頭のカメラワークから特徴的で、「おっ?何コレ?」となる。
スタンダードサイズ?と思わせて、カメラが寄っていくとなんだビスタか、と。
こんな仕掛けホラー映画にあんまり必要ないのに、なんだろう?と気持ちは前のめり。

地味だけど正統派な仕掛けで、映画の多層な世界をあの手この手で描いている。地道に。
あれ?これ、ホラー映画だよねえ?

変な面白さがあって二度鑑賞してしまった。

この映画はレイヤー多めで重層的な、実はかなり凝った作りだ。
空間、時間、歴史が上層下層に幾重にも重ね合わされている。

まず、映画の時系列からしてそう。
導入があり、遡って話が進み、そして終わるが、そこから一捻りある。
空間は、ドローンで見下ろす俯瞰ショットを挟み、地下に降りる。
わざと時間を少し前後に入れ替えたり、同じようなシーンを別の時間・場所でやったり。
テレビの中で並行的に流れる「お説教」。その構造とか。
冒頭のトップレス酒場の外壁には、マリリン・モンロー風の女性のドレス(赤)を引っ張るワニの姿が描かれていて、そこから赤い服の"彼女"が出てきたり。
音楽は全て映画内の状況や人物の心情にリンク。
各所の名作ホラーへのオマージュ。

「私らしくない人生は受け入れない!」
逞しき怪女、ミア・ゴス演じるマキシーンの決め台詞も、また一つのレイヤーの中にある。

何よりも、観ている時は気が付かなかったがキャスティングを見て、びっくらこいた。
うっそ…!
なにか違和感は感じていたが、気づかなかった。不覚…
(まだ観ていない人は、本編を観てからエンドクレジットをしげしげ確認されることをおすすめする。)

<レイヤー>は、映画のタイトルに沿うなら、<交錯crossing(X)>と言い換える方がいいかもしれない。
老と婆の交差。
もとい、老婆と娘の交差。
老婆と老爺の交差もある。
(意外や色んな感情が交錯する。)

タイトルの『X』の言葉にも幾つもの意味を重ね合わせている。
小ネズミちゃんが外す十字架。
未知の才能、Xファクター。
何者かわからない謎の”X”
禁忌・タブー。ポルノ作品”XXX”
“トランス(=X)”フォーメーション、「変身」。

「私らしくない人生は受け入れない」という若いマキシーンと、
望むような人生をおくれずに老いの中に潰れてしまいそうなパール。
二人の鏡像関係が、「変身」とCrossingの中で、命の火花を散らす。

高尚に言えば?
しなくてもいい深読みをすれば?

しかし、いったん人殺しがおっぱじまってからはちゃんと「古式ゆかしい」スラッシャーホラーだ。ご安心されたし。ちゃんとグッチャグチャ。イタタタタ…。

本作を観終わってから、これが三部作を予定した最初の作品だと知った。
いやはや、本当に驚かせてくれる。
2作目の『Pearl パール』(2022)はあの老婆の前日譚、若かりし頃を描く。やったぜ。
3作目は『MaXXXine 』は2024年8月現在、米国で上映中だが、日本公開時期はまだ未定とのことだ。
待つ楽しみが増えた。

まずは『Pearl パール』を観て、備えることにしよう。
とても映画らしい映画。仕掛けに幾つ気づけるかな?的な面白さもあって、スラッシャーホラーをこんな風に楽しめるとは全く思っていなかった!楽しかった!


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