何とも言えないショートムービー
描かれているのはカオリの空虚な心だろう。
自殺サイトで出会った二人だが、カオリはもう何人もの自殺志願者と出会っていたことがわかる。
それなのに、自分だけが今でもまだ生きていると思ったのだろうか。
そしてスバル
彼は引きこもりで将来など何も見えない。
そしてこの二人の会話は敬語で、噛みあってない。
それはおそらく目的地に近づいて行くにつれ、スバルの自殺したいと思う気持ちに違和感と葛藤が生じたからだろう。
それは、引きこもっていた自分とは真逆の感じがするカオリと出会ったからかもしれない。
カオリはスバルとは違い夢も目標もあった。
彼女から滲むように見える明るさは、とても自殺したいなどと思えるものではない。
美容師になりたいと言った彼女が切ってくれた髪の毛
その腕はお世辞でもいいとは思えないが、その瞬間にスバルの中には生きる希望が湧いたのだろう。
ガス欠の前に「もうガソリンがない」と言ったのも、思いとどまりたかったからだろう。
しかしカオリの意志は固かった。
あの震災で両親を失ったことがわかるが、カオリ自身もう両親のことは忘れたと言っておきながら、「未だ10年経ってませんけどね」というふうに答えたのは、自分の悲しみを他人がわかるはずはないと決してそれは共有などできないと、他人をその部分に上げたくない思いの強さだろう。
そんな自分がいながら、一緒に死んでくれる人を探すというのはいったいどんな心境だろう?
カオリはカフェでスバルと話した後、彼の車の後部座席に乗る。
それは、彼を道連れにはしないことを決めた証だったようにも感じた。
想い出の灯台
家族と2度ほど行っただけだったが、その灯台が震災でなくなっていた。
港ではもう二人の会話は完全に嚙み合っていない。
死ぬと決めた場所に立ったカオリは、誰の助けがなくても両親の元へ行けると確信したのだろう。
それを見ていてくれる誰かがいればそれでよかっただけだったのかもしれない。
さて、
自殺者の想い。
本気で死ぬことを選択すること。
カオリにはすでに迷いなどなかった。
同時に知識上では死というものに恐怖していたのかもしれない。
だから誰かを誘うのだろうか。
部屋の天井に吊るされたロープ
小さい頃に描いた絵
それこそカオリが最も大切にしていた想い出
その想い出の中にあった灯台
楽しかった思い出と両親の存在こそ彼女の生きる意味だったのだろう。
カオリはまだ悩んでいるスバルの想いを早々に見切っている。
にもかかわらず彼に運転させて故郷岩手に向かった。
それは、そんな彼女にもほんの少しだけ手助けが必要だということだろうか。
あの場所へ連れて行ってほしい。
カオリは、一緒に死んでほしいとは言わないし、むしろ「帰りたくなったら言ってください」とさえいう。
あの目的の場所まで行くために必要な手助けが欲しい。
それさえしてくれるなら、正直誰でもよかったのだろう。
このことにカオリは改めて気づいたように思った。
彼女がした理髪
最後にしたかったことでもあり、そんな些細なことがスバルの気持ちを大きく変えたことにも気づいた。
カオリの最期の笑顔が印象的だった。
もう生きることができなくなるという絶望と、人間だけがする自殺という行為
本気でそうしたい人に対して、できることはスバルのように見送るだけなのかもしれない。
特にあの震災による絶望感は、大きいのだろう。
震災後の10年で約240名の方が自殺したと言われている。
それを黙って見送ることもまた、ひとつの人間性なのだろう。