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ミセス・クルナス vs. ジョージ・W・ブッシュのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.7
 何やら随分仰々しいタイトルで、そこにはジョージ・W・ブッシュの記名も出て来るが、当然だが本人は出て来ない。あのアメリカとキューバの法的な無人地帯に建てられた悪名高きグアンタナモ収容所に収監された長男を助け出す為に、文字通り奔走したミセス・クルナスという名のお母さんの話で、実話なのだという。その奪還劇には何と1786日(約4年半)掛かったというからそれはもう距離的にも時間的にも途方もないものがある。2001年、アメリカ同時多発テロが起きた1ヶ月後。ドイツのブレーメンに暮らすトルコ系移民一家の母ラビエ・クルナス(メルテム・カプタン)は、長男ムラートを朝食に呼びに来るが部屋はもぬけの殻で、行方が知れない。敬虔なイスラム教徒であったムラートが行きそうな場所を物色して回る肝っ玉母さんは、息子が旅先でタリバンの嫌疑をかけられ、キューバのグアンタナモ湾にある米軍基地の収容所に収監されたことを知る。ラビエは無実の息子を救おうと奔走するが、アメリカとイスラムの問題に首を突っ込みたくないドイツの警察側も行政側もあり、母親の叫びを親身になって聞いてくれない。

 然しながらミセス・クルナスことラビエ・クルナスさんのとんでもないバイタリティや空気を読まないKYな行動の数々には驚きを禁じ得ない。夫にも息子たちにも何の相談もせず、ロビー活動ならぬ堂々たる正面突破で母親の焦燥を前面に押し出さんとするのだが、彼女の自動車の危なっかしいハンドル捌きが現わすように、所詮は感情で突っ走る様な素人の戯言なのである。家父長制が根強く残るトルコ系移民の家庭では3人の男子が誕生し、ある意味男系家族の中で四面楚歌な肝っ玉母さんを映し出す。彼女の話に乗ってくれるのは、クリーニング屋に勤める妹と、行きがかり上重要な役割を担ってしまった電話帳で見つけた人権派弁護士ベルンハルト・ドッケ(アレクサンダー・シェアー)だけで、家族の不和や一致団結に至るアンサンブルにはほとんどフォーカスされない。つまり今作はアメリカ同時多発テロ以降のグアンタナモ収監を題材にしながらも、監督のアンドレアス・ドレーゼン はスティーヴン・ソダーバーグの『エリン・ブロコビッチ』のような一発逆転の奪還劇に触発されており、本来ならシリアスなリアリズム一辺倒にならなければならない描写が肝っ玉母さん方面にブレてしまい、社会的意義が損なわれている印象があるのは否めない。
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