[スペイン、ある桃農家一族の肖像] 40点
2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品、金熊賞受賞作。子供たちが原っぱに捨てられた車で宇宙船ごっこに興じている。車は長年の遊びの果てに秘密基地化しており、子供たちの重要な遊び道具だった。しかし、ふと目を離した隙にクレーンで撤去されてしまった。幸福と平穏は永続しない。一気に不穏な空気が立ち込める。先祖代々桃農園を経営するソレ家には危機が訪れていた。地主ピニョルがソレ家の土地にソーラーパネルを設置するため、一家に立ち退きを要求したのだ。土地の借用が口約束だったことを知った一家は立ち退き要求に従う派、抵抗する派、どうでもいい派に分かれ、それぞれの物語が展開される。家長ロジェリオはピニョルを懐柔しようとするが失敗し、その長男キメは立ち退きに反対し、義理の息子シスコはピニョルと癒着することで一抜けしようとし、不機嫌なティーンエイジャーたちは親たちの顔色をうかがいながらも農地への関心はなく、三人の子供たちは縦横無尽に遊び回る。どの立場に居ても、共通して感じているのは築き上げたアイデンティティが突如崩壊することへの憂鬱であり、各々それを解消するために動いている、という真面目で分かりやすい家族の肖像である。年代の異なる三人の子供たちから見た家族の生活はリアルな質感を以て捉えられているが、全体的に無難すぎて特にこれといった印象を残さず終了。より直接的な蹂躙への批判が展開される終盤で盛り返すが110分も我慢できなかった。