いまという時代を切り取った良質なドキュメンタリーを見ていると錯覚してしまう。世の流れに抗しきれず、解体していく農家、というドキュメンタリーだ。それにしても、キメットおやじの思考停止ぶりというかポンコツぶりがおかしくてやがて哀しい、である。西川美和監督の「蛇イチゴ」に出てくるおやじを思い出した。返済不能な借金があることがわかり、じゃあどうしようかとあがいてみるが、疲れたからとりあえず寝よう、と言って、本当に寝てしまうのだ。いちおう、当座の資金を確保しておこうということで、桃の収穫作業をやっていたとは思うけど、でも、仕事を手伝っている長男、ロジェーからすれば、おいおい、マジかよ。おやじ、なんも考えていねえだろ。やってらんねえな、と心のうちで思っていたに違いない。
こういう場合は、たとえば、アルカラスの桃をブランド化してアピールするとか、桃狩りツアーを企画するとか、地元政治家を炊き付けて地主に圧力をかけるとか、どっかから匂いを嗅ぎつけてきた地域おこしコンサルみたないインチキ臭いのが出てきて、そんなことを言い出すんだよな。それで、地元住民は、騙されちゃう。この映画には、そういうのが登場しなかっただけもよかった。地域おこしといっても、うまくいくのは、ほんの一握り、これが現状だ。
ロジェーがトウモロコシ畑?の隙間に植えて育てていたのって、葉っぱから見ると、大麻なのかな。おやじのいいのは、こういうのを見付けて、黙って焼いて処分しちゃうところだ。息子が道を踏み外さないように未然に防いだわけだ。もしバレていたら、ただ事では済まなくなる。おやじはこういうところは頼りになる。
ウサギというのが象徴的だ。うまくいっていても、結局、どっかに不安材料が湧き出してくる。退治しても退治しても、どこからともなく出てくるウサギみたいに、心配の種は尽きない。太陽光パネルにすれば、銅線ケーブルを盗もうとする輩に悩まされるんだろうな。
最後の家族総出で瓶に詰めていたのは、桃なんだろうか。それとも別の果物だろうか。