Kaji

ソウル・バイブスのKajiのネタバレレビュー・内容・結末

ソウル・バイブス(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ヒップホップ好き、韓国映画好き、アクション映画好きな私には好きなところしかない。
オジャパメンに乗せてスーパークールなドリフトをキメたユアインとベイビードライバーやワイスピ、表情カットの王道さとかカーチェイスアクションのオマージュも楽しい。
百想と青龍賞フォロワだどムンソリとユアインの絡みは嬉しいです


ヒップホップのインスパイアとまだ軍事政権の残り香があるオリンピックイヤーのソウルを舞台にして切り込んで描く「権力より強い主権」的な社会派メッセージに新しさはありませんでしたが、キャラクターで反映させているのでトリビア的に紹介してレヴューに替えたいと思う。
映画の質感とノリよりも深いところが見えた映画です。


ハゲの人→チョンドゥファンですね。設定は1988盧泰愚政権時。もういろんな映画やドラマで象徴的に出てきます。

資金洗浄と前政権の癒着→これはムンソリが「貸金の大統領」として比喩されてましたが日本との関係でしょうね。バブリーなファッション表層でモロでした。

ムンソリの側近→キムソンギュンが演じてました「将軍様!」っていうあのひと(この将軍様!ってのは金日成っぽく聞こえるのがみそ)ですが軍事独裁のもとKCIAにも入れず裏でチョンドゥファンを信奉して政権交代後資金繰りをしていたという設定。コギョンピョが大学出で「学生の時はジャスティスを叫んで・・」ってのはKCIAがしていた言論統制や不当逮捕を拷問シーンで皮肉ったものでしょう。風刺が効いてます。

コギョンピョとユアインのヒップホップ対比→ユアインが中東から戻った時のコレクション棚ですがRUN D.M.Cとかが並んでた棚からシュガーヒルギャングを並べたのへスライドしますが、それまで貧困層のブロックパーティから派生したヒップホップへ中流層も入りクイーンズ出身のRUN D.M.Cがエアロスミスとコラボ、白人の音楽だったロックと接続してギャングじゃないシュガーヒルギャングが出ました。ちなギャングって自称しちゃう寒さはありますがレジェンドです。
はしょりすぎで怒られそうですが、ブラックカルチャーのトレンドアイコン化とレーベル派閥化とファッション経済。
アディダスがRUND.M.Cを起用してスパースターがバカうれした話、マイケルジョーダンがナイキとコラボして「バッシュ」が売れた時代。
ブラックカルチャーが経済と接続してモノが輝いていた時代をインスパイアしたのは経済とスタンス表層のうまいとこでした。
ちなそこに、KーPOPの中でラッパーとして評価が高いWINNERのMINOが絶妙なポジションでキャスティングされてるので音楽批評的にもニヤリとしました。もっとラッパー起用すればよかったのに。
 ユアインはアメリカにいた設定、コギョンピョは学生運動から、MINOはライバルながら共闘するエンジニア兼チームリーダーで最後は助けてくれる、という。
ちなみに、権力へではなくお金の流れを断とうとすることで批評精神を入れてるので政権や時代への問い直しではなく、今に通じる格差や権力のマインドを皮肉った内容だったと解釈しています。
おんまがミノちゃんの車で唐辛子を干すの笑った。ファッションもアートも独自の世界を描きつつ活動してバラエティでも優しくて、決めるとこ決めてるMINO。ハマってました。アディダスの赤ジャージ3人好き。ちな西海岸なカラーギャングをインスパイアしたのかなと勝手に思ってます。
L.Aに行きたいユアインakaドンウクより先行ってますね。

イギュヒョンはタクシー運転手→説明不要な名作「タクシー運転手」と同時代のドライバーでナビ役でした。
ソンガンホ様も黄色のシャツで運転してましたね。そのほかはケミカルウォッシュのジーンズでしたが、メディア統制のもと国内で報道がされなかった光州事件を匂わせます。思い過ごしでしょうか。

ユニ・ジュヒョン→バイカー、ハーレーとかの重いバイクじゃなくてオフ車ってのが彼女の身軽さとマッチしててタンデムで国旗カラーのカラーボール投げつけるのには痺れた。スタントダヴルだろうけど、メイドに化けたりフラッグガールやったり、泥酔してニュースに出たり。

検察→オジョンセが演じた検察官を分析するには私には知識が足りませんが「THE KING」が同時代をなぞっていると思います。民主化運動を弾圧した独裁に刃向おうとした公務員が、押収した車を運び屋に与えるってなかなかパンク。彼を主役にしたような韓国映画があっても良さそうですが、今回は脇でしたね。惜しい!もっと観たかった。

オリンピックイヤー→韓国が経済成長を経てオリンピックを招致したのには、経済の伸びを世界へアピールする時代の到来であり象徴で、そこに貧困層から音楽産業の柱と進化したヒップホップを同期させたのは無理がないリンクだと思いました。
 道路は舗装したて。そこをチェイスする車はミッション車。もはや「オールドスクール」な反骨したひと。ドルのストックが上空に舞い(通過危機へ)、当時それまであったカルチャーを「オールドスクール」から「クラシック」にしてしまった現在地点を問い直す映画でした。

日本の経済史や戦後史と全く違うので、当事者の方々の感想がすごく読みたい一作です。
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