75才以上の人間に安楽死を認める法案が可決し、合法的に老人たちを死に追いやっていく近未来の日本。ナレーションもなく丹念に日常を積み重ねてその世界を描く。旅行のようにプランが示され支度金を支給するところなど、いかにも日本政府がやりそうなお膳立て。その制度を支えて送り出す側にいる若い電話オペレーターや役人たちは感情も押し殺して淡々と職務に従事するが、実際に老人たちと関わっていくことで制度の矛盾に人として苦しむ様子も描かれ、そこには娘の医療費のために病院の「仕事」に従事するフィリピン人という協力者の存在もある。倍賞千恵子演じるミチは職を失い住む場所も追われ、プラン75を選択したが結局は死の間際で生きる選択をする。一方でそのまま死んでいく老人たちは所持品も処分され、物のように廃棄される。死ねなかったミチは生きたとしても希望はない。それでも途切れ途切れに口ずさむ童謡にはどこかほっとする。
キャストが感情的になる場面は少なく静謐な作品。スクリーンに入った時、まだ上映まで間があるのに、ほとんど満席だったのに驚いた。
