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PLAN 75のsomaddesignのレビュー・感想・評価

PLAN 75(2022年製作の映画)
5.0
少子高齢化が一層進んだ近い未来の日本。解決策として満75歳から生死の選択権を与える制度「プラン75」が国会で可決・施行される。夫と死別し、ひとり静かに暮らす78歳の角谷ミチは、ホテルの客室清掃員として働いていたが、ある日突然、高齢を理由に解雇されてしまう。住む場所も失いそうになった彼女は、「プラン75」の申請を検討し始める。

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何一つ未来的なガジェットが登場しないせいか、現代と地続きの未来っていうか、別ユニバースの現代日本っぽくてSF心くすぐられる。どことなく石川慶監督「Arcアーク」を連想しながら見てた。超長寿と切り捨て寿命って全然違うアプローチなのにとても似た味わい。命の値段について、貧富の格差含めて人生の意味を問う思考実験のような作品。トロッコ問題のような選択を観客を迫ってきて、清濁善悪を揺さぶってくる。こういう体験をしたいから映画館に通ってるのを思い出させてくれた。

現代の「楢山節考(83年パルムドール)」としてカンヌ国際映画祭で注目され、「ある視点部門」に出品。カメラドール賞の特別表彰を受けた。姥捨山伝説が現代のリアリティとして再掲されてるみたい。

物語の序盤、役所の手厚い支援(支度金10万円・合同火葬&埋葬なら費用負担なし)に「そんな素晴らしい制度、ぜひ利用したい!🤩」と思いながら見てた。酷い制度のようでいて、結局最後まで「自分なら利用しちゃうな」って気持ちは変わらなかったな。後始末考えなくていいのは気楽でイイ!

ピンボケのOPから徐々に輪郭が浮かび上がり、凄惨な事件現場が浮かび上がる。モチーフになってるのは2016年の相模原障害者施設の事件で、その後同様の事件が病院・老人ホームで起こっていったのも今作の着想の元だと思われる。
今作のベースになった短編「『十年 Ten Years Japan」発表時のインタビューで「社会に蔓延する不寛容な空気に対する憤り」が創作のモチベーションになったと答えている。他人の痛みに鈍感になり、自業自得と突き放す。一見優しい親切な提案が行き着く先にあるものはなんなのか。価値ある命⇄価値のない命に線を引く危うさを映画に昇華しようとした。


『有用』とされる新制度が孕んでるある種の欺瞞に始まって、企業との癒着〜職員の不正まで、スケールを変えて悪事が蔓延してるのもまたリアル。

2000年代半ばから盛んに言われるようになった『自己責任」が発端になっているそうで、社会的弱者を「自業自得」とばかりに気軽に袋叩きする風潮
社会的弱者を切り捨てる病理についての映画は多いけど、今作の場合切り捨てる側の疑念も同様に描いてるのが新しいと思った。


全体的に寒色系の冷え冷えとしたクールな画面作り・カラーリングが印象的。冷淡でシステマチックに登場人物を取り囲む社会システムのある側面であるし、転じてその人の中で揺れ動く温かな部分が透けて見える。時折観客の方をジッと見つめてくるシーンがあって、「第四の壁」を超えて観客に是非を問いかけられた気がしてドキリとしちゃう。「お前ならどうする?」「これもまた現実」っていうか。


倍賞千恵子を今更褒めるのもどうかと思うが、群像劇のような物語の中心にドシンといて彼女の悪戦苦闘を通じて、観客は世代を超えて当事者意識を持たざるを得ない。生老病死は誰もが当事者。強くてまだまだ動けるのに、働く先がない。寄るべなく、いつか自分もまた孤独に死ぬ未来を予感してる。

磯村勇斗ってこんな顔だっけ?と思わせるほど、過去例にないキャラクターを熱演。同名の別人が演じてるのかと思って、鑑賞後に思わずクレジットを調べ直すほど。いつも挑発的で自信満々なイケメン役の印象強いが、今作だと葛藤や疑念がジワジワ広がる様子を繊細に演じてて素晴らしかった。

コールセンターの係員・成宮こと河合優実。「サマーフィルムにのって」「由宇子の天秤」「ちょっと思い出しただけ」etc.と近年活躍目覚ましい。今作でも声だけの演技だったり、出演シーンこそ限られるものの物語全体に静かに影を残す存在感。今後の期待も高く目が離せない。

市役所の岡部と同じく、若い二人の違和感や疑問こそが未来への希望に思える。が、なんだか問題を若い世代に丸投げしちゃった感もあって、上世代からすると申し訳ない気持ちもいっぱい。
角谷さんはあのラストは一体何を見つめたか? 希望の日差しか、黄昏か。

自分はもう未来を託される世代ではないので、若い世代の人が今作にどういう感想を持ったのか読んでみたい。


54本目
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