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なつかしの顔の一のレビュー・感想・評価

なつかしの顔(1941年製作の映画)
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30分と少しの小品だけどすごくいい。ニュース映画に映っているという息子(または夫の、または兄の)姿を一目観たいと願いながら、母は涙を拭う合間にその一瞬を見逃し、妻は映画館の前まで来たにも拘わらず何故か引き返し、弟は足を挫いて家から出られない。どことなく不条理。そして母と妻はスクリーン上の息子/夫の姿を、観てはいないのに観たことにして作り上げる。それは外地の戦場で銃を構える勇ましい姿である。町まで向かうバスの窓(≒スクリーン)越しに、妻が陸軍の演習を見る場面は劇中で最も印象的だが、その後彼女が目当てのニュース映画を何となく観られなくなってしまうのには既に厭戦の気分が伺える。弟の「あのシャシン次はどこに行くんだろう」という言葉に、映画の物体性を思う。

小石栄一『熱情の翼』
併映の『なつかしの顔』とは対照的に愛国プロパガンダ丸出し。売国奴の非国民は死ぬ間際に“健全”な愛国日本人に改心し、女は“立派な日本人”として男に愛される。これだから戦争はイヤ。
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