Ash国立ホラー大学院卒論執筆

マーターズのAsh国立ホラー大学院卒論執筆のレビュー・感想・評価

マーターズ(2007年製作の映画)
4.0
【恐怖を超えたその先へ】

イカれたスプラッター映画や実際の拷問事件を扱った漫画(真・現代猟奇伝)など通じて感じる忌避感や不快感、肝試しや一人で部屋にいて物音がした時の恐怖感。

そのどれもが、結局はまやかしで偽物でしかない。(だからこそ楽しめるのだが)本物の恐怖、本物の苦痛とはなんだろうか。それに肉薄するする1つのエピソードがあるので、紹介したいと思う。


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個人的にモノホンの恐怖を感じたのは1度だけ。
幼少期に骨折して、直さずに歪んで繋がってしまった骨を元に戻す手術をした時だ。部分麻酔をしているので基本的には痛くはないとはいえ、たまに痛みが襲う。(軽くナイフで切れた程度の痛みでしかないが)

ハンマーで骨を砕く為に、ノコギリで裏側から切り目をつける。薄い部分は糸鋸でそのまま切る。邪魔な肉はメスで切除。
ノコで骨を切るキリキリ音は、まるで『オーディション』のよう。ハンマーで砕く時もそうで、骨伝導で音が結構聞こえる。

痛みがした瞬間は、これがいつまで続くのか、もっと強くなるのではないか、という疑心暗鬼と、キリキリ音の不快感が相まって、物凄い恐怖感 そしてそれに伴うケタ違いのストレスが精神と肉体を容赦なく襲う。

手術は無事に終わったが、あまりのストレスの所為か術中に39度の熱が出て、妙にデカいニキビも3つくらい出来た。(そういう体質でないにも関わらず)
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⇩《ここからネタバレ注意》 ⇩





この手術中に考えていたことはただひとつ、「早く終われ」。つまり、その"恐怖"という現実から逃れようとしていたわけだ。
リュシー達が化け物やゴキブリを見たのは、その現実逃避の成れの果てだと思う。手術は数時間で終わるが、拷問は何十年も続く。受け入れる他ない"現実"から逃避し続ければ、人格なんか簡単に崩壊しそう。

その恐怖・苦痛を拒否せずに、受け入れて行き着く境地。それが"殉教者"というものだろうか。その殉教者に成りやすいのは若い女性、というのは出産の為女性の方が痛みに強いからかな。

殉教者だけが見ることが出来る死の世界。あのばあさんはすぐ自殺したので、少なくとも悪くない場所なんだろうね。