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胸騒ぎのミスターのレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
4.0
旅先で知り合った家族の家に招かれたことから異国の地で地獄のような出来事に巻き込まれる話。
かなりの鬱展開。前半は睡魔との戦いを強いられる退屈な展開でありながら、所々家族の奇妙さ(喋れない息子が口を大きく開けて別館を見る、実の息子に対して冷たい夫婦、なぜか他人の娘に躾をする妻などなど)を感じる。そしてラストはまさしく絶望。なんの救いもない展開には正直驚いた。しかしその絶望に微かながら因果応報の側面があるのがこの映画の不気味さ。夫の言った「君が譲ってくれた」という発言は「夜に泣いている娘を放っておいて情事に耽っていたじゃないか」ということだろうか。確かにその他の場面でも娘を面倒に感じている描写や理由なく怒鳴る描写もある。怪しげなベビーシッターにも結局預けてしまう。その結果が親としての立場の放棄となってしまったと考えれば、筋が通らなくはない。
さらに親としての責任を放棄し、愛と肉欲を選んだものである主人公たちの結末は、楽園追放と娼婦ベロニカを合わせたような聖書のオマージュになっている。裸に剥かれて原初の姿のまま二人仲良く現世という地獄を生きるかと思えば、淫欲にまみれた存在として石を投げられる。なんと意地悪く、そして哀れな結末。
この映画は今後鬱映画のスタンダードになり得る可能性を秘めている。そんな作品を映画館で観れたのは幸せだったかもしれない。ただ本当に辛い気持ちになるので、視聴の際は覚悟を。
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