深獣九

胸騒ぎの深獣九のレビュー・感想・評価

胸騒ぎ(2022年製作の映画)
3.5
正直な感想はキショい、イヤすぎる、である。何が起きているのか、どうなってるのか、終始はっきりしないし理解できないところがたまらない。というかキツい。夫婦の目的が露わになり、転げ落ちてゆくラストに吐き気を催す。イヤじゃないけど嫌いな映画だった。

---
以下、もやもやしすぎたので監督インタビューを読んでみた。純粋な感想ではないかもしれないが、独り言として記録する。
---

似ている作品で言えば『ファニーゲーム』だろうか。クリスチャン・タフドルップ監督自身も、影響を受けた監督のひとりにハネケを挙げている。だが、本作は『ファニーゲーム』ほど激しくないし恐怖もない(ラストまでは)。もっとじわじわと、さざ波のようになにか嫌なものがまとわりついてくる感じ。蜘蛛の糸が絡まった感じ。なんか首筋にあるようだけど、見えないし触ってもわからないけど、ずっと感覚がある。この映画を例えるとこれだろうか。

それ以外もまとわりついていた違和感のひとつに、被害者夫婦の行動がある。なぜ危険から遠ざかろうとしないのか?ずっと気持ち悪かった。
だが、監督のインタビューを読んで腑に落ちた。どうやらデンマーク人をはじめスカンジナビアの人々は、礼節を重んじ自分の本心をはっきりと表明するのが苦手なようなのだ。途中、嘘でもいいから理由をつけて、そこを離れるチャンスはいくらでもあった。だが相手を慮り、己の気持ちを押し殺した結果、最悪の(本当に最悪!)結果を生み出してしまった。
だがこれこそが人の本質であり、監督が描きたかったことだという。詳しくはインタビューを読んで欲しい。

私はこの映画におおむね満足なのだが、ただひとつ、ラストシーンが神話や宗教をにおわせるものに描かれているのは残念だった。あーなにかモチーフがあるのかよくあるやつかー、と感じてしまったからだ。
監督としてはその要素を第一に考えていたわけではなく、ラストのスパイスとして採用したようだが、ならばもう少し薄めても良かったのではないか。印象的な台詞もあり、観客はそこに引っ張られてしまうと思う。私はそうだった。

人と対峙するときに、スカンジナビア人と日本人は極めて近い感覚を持っていると知った。この映画は日本でヒットするに違いない。嫌な気分になりたい人はぜひ。

*参考にした監督とインタビュアーのコメント抜粋

「礼儀正しくあることや、人を喜ばせようとすることは、実際にどれだけ自己犠牲を伴うのか」

スカンジナビア諸国の人々も、無礼な態度を取ることに抵抗があり、不快な状況でも何も言えない人が多いです。

彼らにとってはこれは「どこまでやれば主人公のビャアンたちは私たちを止めるのか」というテストであり、ゲームなのです。

聖書のレビ記では異教の神=モレクに子どもを捧げることは石打ち刑に値すると記されていて、本作のラストはそれを暗示したものと受け取りました。その他にも冒頭のホテルの絵画や音楽、エンドロールなど、聖書や神話的なイメージが随所に挿入されています
深獣九

深獣九