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ザ・ホエールのganaiのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
3.8
復活したブレンダン・フレイザーの演技と「ストレンジャー・シングス」のセイディー・シンクが見たくて鑑賞。「ザ・メニュー」でずっと無愛想だったホン・チャウが親友に向ける厳しくも優しさを湛えた演技もとても良かったです。

妻と8歳だった娘を捨てて男性の恋人アランとの恋愛を選んだ文学講師のチャーリーはアランの自殺をきっかけに過食症となり、272kgにまで太った結果臓器負担でいつ死ぬかもしれない身体となり果て、ネットによる講師で生活していたが8年ぶりに再会した娘の卒業単位取得のために課題論文を手伝う約束をする…というお話。

ブレンダン・フレイザーは以前に比べて素でも太っているのをメイクで更に肉付けして動くのが本当に苦しそうに見える。

実際に重い肥満症で苦しんでいる人にリサーチしたのだと思うが、笑うだけでも喘息を起こすのに病院に行くのを拒否して取り憑かれた様に食べ物をがっつく表情が凄まじい。

彼が発作を起こすとメルヴィルの「白鯨」を主題にしたエッセイを自分で朗読したり人に読ませるシーンが何度かあるのだけどこれを聞くと落ち着くのだと言う。

てっきり亡くなった恋人が残したものかと思ったが実はそうでは無く延命のためでも無いことが最後に明らかになるのだけど、この時の苦悶から至福の表情に移り変わるフレイザーの演技が本当に素晴らしかった。オスカー受賞おめでとう!


題名は彼の巨体と「白鯨」に因んでいる事は明らかだけどサウンドトラックも彼が身を起こすシーンにザトウクジラの鳴き声に似せたオーボエのような低音を重ねてくるのが威圧感を高めている。

物語がアパートの室内に限定されるので音響はドアの開け閉め、雨音、鳥の声など地味な環境音ばかりなのだけど、奥行き感のある自然な位置から聞こえてくる丁寧なサウンドデザインがされていて良かった。

Dolby Atmosでの音響設計だったので出来れば設備のある劇場で観たかった。
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