このレビューはネタバレを含みます
アウシュビッツ収容所と壁一枚隔てた家に住むルドルフ・ヘス所長家族を捉えた映画。
アカデミー音響賞を取っただけあって優れて音の映画ではあったけど、逆に見せるところと見せないところで観客に関心を持って思考する事を促す映画でもあった。
分かりやすいところでは家族が淡々と生活を営む背景に時折り人の叫び声や銃声が聞こえてくるのだけど、ラジオ番組「アフター6ジャンクション」で解説者の高橋ヨシキによると、映画製作者は収容所のどこで、いつ、誰が、何をされたかという事実に基づき反響音に至るまで設計したのだという。この辺は日常生活の背景で史実通りに事が進む「この世界の片隅に」を思い出しました。
音でもう一つ印象的だったのは家族が壁に近づくと「ブーン」という低音で、有刺鉄線に流された高圧電流の音なんだろうけど言及はされない。
見せない演出についてだと、壁の向こうの収容所内部はもちろん見せないが、家に招かれたヘスの妻の母親が夜になって寝室から見える明かりの意味に気付いて翌朝書き置きを残して姿を消すのだけど何が書かれていたかは見せないとか、何度か出てくる草むらに転がるたくさんのリンゴとそれを運ぶ少女とか、うっかりすると意味を見逃してしまいそうな場面が多い。
ジョナサン・グレイザー監督のスピーチでも明らだけど、これをホロコーストに限定して鑑賞すると大事な事を見誤ってしまうのだろうな。繰り返し鑑賞したい作品だった。