スローモーション男

大いなる自由のスローモーション男のレビュー・感想・評価

大いなる自由(2021年製作の映画)
4.8
 やっと観れた。素晴らしかった。

 最近観たライナー・ヴェルナー・ファスベンダーの作品とも関連している本作。

1945年、ドイツ。同性愛禁止の刑法175条のため同性愛者のハンスは投獄される。そこにはヴィクトルという男がいて、ゲイのハンスを忌み嫌うが次第に打ち解けていく。その後、ハンスは何度も投獄され、その度にヴィクトルと再会するが1969年に刑法175条が改正され同性愛は禁止ではなくなるのだが…。

 ほとんど刑務所内だけの物語ですが、飽きず面白い映画でした!
 この映画の素晴らしい所にまず撮影と照明があります。真っ暗の独房のなかでタバコの火だけが映り、ハンスの冷たい表情を映す。すると場面が変わり過去へ…。

 ハンスと恋人たちのやり取りも美しいのです。若い青年と点呼を無視して同じ牢屋に入れられるシーンで「やっと会えたね」と言ったり恋人のデートを見ているようです。
 しかし、悪いことも起きる。恋人は耐えきれず自ら死を選ぶ。悲しみに堕ちるハンスを見て、ヴィクトルは優しく抱き締める。2人は友情や愛情を越えたもので繋がれるのです。そこのフラストレーションは素晴らしく、観ているこちらも愛の大きさに感服します。
 ヴィクトルは、刑務所から出られるはずなのに現実社会に出るのが怖くて出られない…。

 1969年になり同性愛が合法化される。はなればなれのヴィクトルとハンス。ハンスは自由を手に入れたのに。何かが足りない…。そこで彼が起こしたことは。
『カッコーの巣の上で』に似ています。もっと言うと『まぼろしの市街戦』という映画のラストシーンにも似ています。
 人生にとってどこを目指して歩んでいくのか?自由だけが本当に幸福なのか?

私はハンスの起こした行動は肯定的に捉えたいと感じる。そうでなきゃ、人生を歩んでいけないから。