くまちゃん

カーターのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

カーター(2022年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

ワンカット風のノンストップアクションと言えば聞こえは良いが、やってることは「悪女/AKUJO」と同じ。

ただ「悪女/AKUJO」では部分的だったワンカット風演出が全編通して一貫している。
臨場感あり、緊張感あり、それでも睡魔が静かにやってくる。

なぜか?

ストーリー全体に緩急が欠落している。
初めから終わりまで永遠に「急」の状態が続く。
観客は疲労し、緊張感に慣れ、それが当たり前となる。映画での「急」が体感的に「緩」へと変換され、かといってさらなる変化が映画にあるわけでもない。
退屈さだけが残る。
テンポが一定。それが今作の一番の難点と言えるだろう。
せめて90分くらいにおさめることができればまた違ったのだろうが、この演出方法で2時間超えは流石に長い。
劇場と配信の差もあるか。今作は間違いなく劇場向けと言える。

戦闘シーンも若干もたついていた。
冒頭の浴場でのvsヤクザは主人公の無敵感を際立たせるためだけの無駄な戦いに思える。
カメラワークで少々誤魔化しているが、
敵の殺意が恐ろしいほど感じられない。
背中からはなるべく襲わない、当たらないように気を使っている、どうぞかわして私を倒してくださいと言わんばかりだ。

主人公の手の甲は娘を庇って負った怪我だと説明されるが、観客からしたらどうでもいいことだ。
ただでさえ戦いボロボロになり血まみれでここまで来てるのに手の甲の傷など誰も気にしていない。

チョン博士の娘ハナと行動を共にし、デモ隊に紛れ込む。
デモではチョン博士とハナのお面を被って、抗議活動を行っていた。
だが、誰もハナの存在に気が付かない。
お面を被って視界が狭まっているのは分かるが、自分たちの象徴とする人物がソコにいるのだ。
いや気づけよ!

物語はDMZウィルスによるパンデミックによって混沌とした世界。
感染者は野性的な暴力性と運動能力が発現する。
これはコロナを元にしているのは明らかだが、感染者の扱いがよろしくない。
感染し襲ってくる者たちは主人公も敵も躊躇なく殺害していく。
まるでゾンビのように。
問題なのはゾンビは死者だが、今作の感染者は生存しているということだ。
つまり、感染者に襲われ戦う場面は、ただの殺戮でしかなく、虐殺である。
ホロコーストに近いと言ってもいいのではないか。
それでいて自分の子供は助けようとする。
DMZは朝鮮半島の軍事境界線のことであり、ウィルスの萬延には国家間の陰謀が渦巻いていた。
主人公の乗る列車の進行方向で線路が爆発して物語は終わる。
エゴイスティックな人間が世界を滅ぼし、我々に未来などない。

この物語にヒーローなど存在しない。
くまちゃん

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