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サムシング・イン・ザ・ダートのarchのレビュー・感想・評価

5.0
「君は成功のアレルギーなんだ」という痛烈な一言が未だに心に残響している。

LAで偶然ご近所になった二人の男は、超常現象に発見し、それを撮影記録し、ドキュメンタリーにしようとする。
『アンダーザシルバーレイク』的な陰謀論めいた都市伝説に接近していく行為や現象解明のために、記号化法則化していく行為の中で認識が危ぶまれ、二人の関係性が変化していく様が面白い。

「何か特別なことが出来るはず」みたいな人生への期待と万能感と、実際に超常現象に立ち会ってしまうという事態が、相互に反応していく事態を加速させていくという流れが、とにかく好きで、ドキュメンタリーという体裁が虚実の境を曖昧にしているのも良かった。
二人の描き分けも素晴らしい。どちらも上記した人生への期待を抱え、燻っていたにも関わらずリーヴァイは後半では頑なに超常現象から逃げようとする。
それは彼が「成功」を恐れているからだ。負け犬で失敗に安心しているからだ。
それが彼の超常現象が次第に解明し、事態が展開する毎に避けようする様からも読み取れるし、何より「落ちる」という行為とのイメージの重複によって表現されているのがいい。

「ものが浮く」という超常現象は上昇運動であるが、同時に「落ちる」という下降運動とセットである。つまり、「ものが浮く」という行為は、いづれ落ちるのではないかたいう不安感を背景に持つのだ。それはまさにリーヴァイというキャラの心理と同じであり、人生が好転していくと頭の中に「失敗してしまうかも」と不安が残り、自ら安全に「着地」できるうちに失敗してしまおうと成功を諦めてしまう彼の心理を端的に表している。途中ギターの演奏で、高音になる度に上昇する現象に立ち会う訳だが、そこでの彼のしり込みは、まさにその心理から来るものだ。
そんな彼は正反対の性格のジョンとクライマックスでの対立の中で、言い当てられてしまう。そして彼は遂に「落ちる」のだ。

この映画の人生の成功と失敗、好転と暗転、上昇と下降を、「ものが浮く」という超常現象を暗喩として機能させ、それをドキュメンタリーという形式に押し込み、そもそも「虚実」すら曖昧にする手練手管はそれはもう他に類を見ない、うだつの上がらない者達をターゲットにした神話となっていると思う。



二回目の鑑賞。ジョンがどんどん深みにハマっていく流れの恐ろしさがやはり白眉。マトリョーシカの風鈴(?)のようなものが奏でる高音がただの生活音だったのが、何かしらの符牒にされてしまうというラストはゾッとするし、アルコールを飲まないはずだった彼の狂気的な目でいわれる「もう1本いいか?」も良い。ジョンとリーヴァイはその現象を通して、変わってしまったか否かで対比されているのだろう。
『アンダーザシルバーレイク』的なLAネオノワール、男同士の友情が物語を牽引しているところがより開かれている気がする。
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